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2022/04/01 研究成果
ワクチン積極的勧奨中止の影響でHPV感染率が再上昇 −大規模疫学研究NIIGATA study−

新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、関根正幸准教授らの研究グループは、ヒトパピローマウイルス(HPV)注1ワクチン注2の積極的勧奨中止が、HPV感染率にもたらした影響を解析し、積極的勧奨中止後の世代で、「ワクチンの標的型であるHPV16/18型の感染率が、ワクチン導入前の世代と同水準まで上昇を始めている」ことを大規模疫学研究(NIIGATA study)にて実証しました。本研究成果は、The Lancet Regional Health - Western Pacific誌に掲載され、このような状況のなか、厚生労働省は、2013年以降中止していたHPVワクチン接種の積極的勧奨を2022年4月より再開することを決定しました。
 
【本研究成果のポイント】
・HPVワクチンの普及により、ワクチンの標的型であるHPV16/18型の感染率は、一旦ゼロまで低下した。
・その後、HPVワクチンの積極的勧奨が中止された影響で、HPV16/18型の感染率が、ワクチン導入前の世代と同水準まで上昇を始めている。
・このような状況を受け、厚生労働省はワクチンの積極的勧奨を2022年4月より再開する。
 
Ⅰ.研究の背景
HPVは性行為を通じて子宮頸部に感染し、HPV16/18型などの高リスク型が子宮頸がんの発症に関与しています。日本国内ではHPVワクチンは、2010年に公費助成が開始、2013年4月に定期接種化され、HPV16/18型を標的とした2価ワクチン(サーバリックス®)またはHPV6/11/16/18型を標的とする4価ワクチン(ガーダシル®)が定期接種に組み込まれました。しかし、厚生労働省は定期接種化のわずか2カ月後の同年6月に、接種後の多様な症状を訴える患者が報告されたことにより、積極的勧奨の一時差し控えという決定をしました。
その状況の下、これまでに本研究グループは、日本人女性20〜22歳を対象にワクチンのHPV感染に対する予防効果を検討し、HPV16/18型(ワクチン有効率93.9%)に加えて、HPV31/45/52型に対してもクロスプロテクション効果注3が認められていることを報告していました。
 
Ⅱ.研究の概要
今回本研究グループは、2014〜2020年度の20〜21歳(1993〜2000年度生まれ)女性3,795人を対象に、ワクチン積極的勧奨中止によるHPV感染率への影響を解析しました。公費接種の導入によりワクチン接種率は2014年度の30.8%から2015年度には87.8%、2016年度には90.0%に達し、2019年度まで90%前後を維持しましたが、2020年度になり42.4%まで激減しました(図)。HPV16/18型の感染率は2014年度の1.3%から、ワクチン接種率の増加に伴い2015年度、2016年度は0.4%、2017年度にはゼロになりました。その後、2018年度は0.4%、2019年度は0.5%にとどまっていましたが、2020年度には1.7%に再上昇しました。HPV16/18型感染率は、HPVワクチンを接種していなかった以前の世代と同水準にまで再上昇してしまったことになります。

Ⅲ.研究の成果
本研究グループを中心に、HPVワクチンの有効性に関する複数の研究成果が国内で発表されたことで、厚生労働省は2022年4月より12-16歳女子に対するHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開することを決定しました。
 
Ⅳ.今後の展開
積極的勧奨差し控えの期間に12-16歳であった年代(2022年度の17-25歳女性)には、HPVワクチンの接種を受けるチャンスを逃している女性が多く存在します。それらの女性を対象に、2022年4月よりキャッチアップ接種注4が開始されます。今後NIIGATA studyでは、キャッチアップ接種の有効性を解析し、国民への発信を続けていく予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2021年10月21日、The Lancet Regional Health - Western Pacific誌に掲載されました。
論文タイトル:Suspension of proactive recommendations for HPV vaccination has led to a significant increase in HPV infection rates in young Japanese women: real-world data.
著者:Sekine M, Yamaguchi M, Kudo R, Hanley SJB, Ueda Y, Adachi S, Kurosawa M,
Miyagi E, Hara M, Enomoto T
doi: 10.1016/j.lanwpc.2021.100300.
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、AMED: 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(JP15ck0106103)の支援を受けて行われました。
 
 
【用語解説】
(注1)HPV(ヒトパピローマウイルス):パピローマウイルス科に属するウイルスで、200種以上のタイプが同定されている。ウイルスの発がんに関与する能力により高リスク型と低リスク型に分類されている。高リスク型HPVは子宮頸がんの他に肛門がん、口腔咽頭がん、外陰がん、膣がん及び陰茎がんの原因となる。代表的な高リスク型にはHPV16/18/31/33/35/39/45/51/52/56/58/59/68型があり、中でもHPV16/18型で全世界の子宮頸がんの約70%を占めている。また、低リスク型に分類されるHPV6/11型は尖圭コンジローマ(肛門性器のイボ)の原因となる。
 
(注2)HPVワクチン:現在日本の公費接種(12-16歳女子が対象)で受けられるワクチンは、2価ワクチン(2009年10月承認)、4価ワクチン(2011年6月承認)が認可されている。両者共に高リスク型のHPV16/18型を標的としており、4価ワクチンはそれに加えて低リスク型のHPV6/11型も標的としている。さらに、高リスク型のHPV16/18/31/33/45/52/58型と低リスク型のHPV6/11型を標的とする9価ワクチン(2020 年 7 月承認)も希望者は接種を受けることができるが、公費接種可能なワクチンには含まれていない。
 
(注3)クロスプロテクション効果:ワクチンが、標的としたウイルス株とは異なるウイルスにも感染予防効果を発揮すること。
 
(注4)キャッチアップ接種:積極的勧奨の差し控えにより接種の機会を逃していた方に対して、公平な接種機会を確保する観点から、従来の定期接種の年齢を超えてワクチン接種を行うこと。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野
准教授 関根 正幸(せきね まさゆき)
E-mail:masa@med.niigata-u.ac.jp

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