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2022/07/06 研究成果
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態における肝臓のセロトニン受容体の関与の解明と新規治療への応用

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者様は、世界的に増加傾向にあります。肥満や糖尿病、ホルモン分泌異常、遺伝的素因など様々な病態形成に複雑に関与しており、その病態解明と有効な治療法の開発が喫緊の課題です。
今回、新潟大学医学部医学科総合診療学講座/大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の上村顕也特任教授、同分野の大脇崇史(大学院生)、寺井崇二教授らの研究グループは、NAFLDの病態進行に肝臓のセロトニン(注1)の受容体(注2)が関与すること、その受容体拮抗薬(注3)投与が有効な新規治療法になりえることを解明しました。
 
【本研究成果のポイント】
・NAFLDの明確な病因は未解明で、決定的な治療法がありません。
・これまでに、NAFLDの発症や進展に、肝臓、脳、腸を繋ぐ自律神経経路(注4)が関与することを明らかにしました。
・その経路で小腸から分泌されるセロトニンが、血液の流れにのって肝臓に到達し、肝細胞に存在するセロトニンの受容体を介して、NAFLDの肝臓の病態に関与することを明らかにしました。
・これらの結果に基づいて、NAFLDのモデルマウスに肝臓のセロトニン受容体の拮抗薬を投与したところ、NAFLDの治療効果を示しました。
 
Ⅰ.研究の背景
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)には生活習慣、遺伝的素因、環境因子を含む様々な要因が複雑に関与することが報告されています。本研究グループでは、NAFLDの病態に自律神経を介する肝―脳―腸連関が関与し、セロトニンやグレリン(注5)などの消化管ホルモンの働きで、腸内細菌叢、短鎖脂肪酸、腸管バリア機能や下垂体ホルモンに影響して、NAFLDの進行に関与することを明らかにしました。セロトニンの受容体は全身の様々な臓器や組織に存在し、いろいろな機能を担っています。しかし、自律神経路を介した肝―脳―腸連関の活性化にともなうセロトニン分泌が、肝臓のセロトニン受容体を介してどのようにNAFLDの病態に関わるのか、解明されていませんでした。そこで、本研究グループはこの課題を解明するため、本研究を行いました。
 
Ⅱ.研究の概要
NAFLDの病態進行と、自律神経経路を介するセロトニン及びその肝臓での受容体(Htr2a)の発現、脂肪合成関連の遺伝子発現の変化を検討しました。
肝臓に起始するこの自律神経経路の遮断によって、NAFLDの病態が制御できるか検討しました。
肝細胞表面のHtr2a拮抗薬により病態の制御が可能か、検討しました。
中枢性に食欲制御が困難なマウスのNAFLDモデルを用いて、自律神経経路の制御、Htr2a拮抗薬が有効か検討しました。
 
Ⅲ.研究の成果
NAFLDモデルマウスでは、脂肪食の給餌により、小腸からのセロトニン及びHtr2aの発現は上昇し、肝臓からの求心性交感神経の遮断によって、その変化が軽減しました。さらに、その受容体の下流では、中性脂肪合成に関わる遺伝子の発現が低下しました。また、これらの結果は、NAFLDモデルマウスにHtr2a拮抗薬を投与することで再現されました。
さらに、NAFLDモデルマウス、NAFLDの患者様の血清セロトニン濃度がNAFLDの進行に伴い低下することも明らかとなり、病態進行の指標にもなりえることが示唆されました(図1)。

Ⅳ.今後の展開
本研究の結果から、NAFLDの患者様において、自律神経経路を介したセロトニン及びその受容体の調節がNAFLDの進行抑制に有用である可能性が示唆され、有効な新規治療薬の開発につながると考えます。一方で、この効果は脳内で食欲が制御できないマウスでは弱く、今後、中枢性の食欲制御と末梢自律神経系の関連を解明する必要があります。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2022年6月29日、Disease Models & Mechanisms誌(IF 5.732)に掲載されました。
論文タイトル:The Liver-Gut Peripheral Neural Axis and Nonalcoholic Fatty Liver Disease Pathologies via Hepatic Serotonin Receptor 2A
著者:Takashi Owaki, Kenya Kamimura, Masayoshi Ko, Itsuo Nagayama, Takuro Nagoya, Osamu Shibata, Chiyumi Oda, Shinichi Morita, Atsushi Kimura, Takeki Sato, Toru Setsu, Akira Sakamaki, Hiroteru Kamimura, Takeshi Yokoo, and Shuji Terai
doi: 10.1242/dmm.049612
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(18K19537、21K19478)、大樹生命厚生財団第54回医学研究助成、新潟大学脳研究所・学内異分野融合共同研究の支援を受けて行われました。
 
 
用語解説
注1:セロトニン
主に小腸にあるクロム親和性細胞で産生されるホルモンで、90%が消化管粘膜に存在します。腸の蠕動亢進や血液凝固、血管収縮の調節を行い、脳内セロトニンは生体リズム、睡眠などに関与することが知られています。最近では、腸管バリア機能への影響や肝障害時の肝再生を促す働きなども報告されています。
 
注2:受容体
細胞の表面や内部に存在し、その外界からホルモンや神経伝達物質などの刺激を受け取り、情報として細胞の反応に結び付ける装置のことです。
 
注3:受容体拮抗薬
受容体に結合しますが、生体物質と異なり生体反応を起こさず、またその結合によって、本来、結合するはずの生体物質の結合を阻害し、生体応答反応を阻害する物質のことをいいます。
 
注4:自律神経経路
交感神経系と副交感神経系の2つの神経系で構成される末梢神経経路です。内臓の機能を調節する遠心性経路と内臓からの情報を中枢神経系に伝える求心性経路の2つの経路から成り立ちます。
 
注5:グレリン
胃で産生されるホルモンです。食欲に関連しています。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学
医学部医学科総合診療学講座/大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
特任教授 上村顕也(かみむら けんや)
E-mail:kenya-k@med.niigata-u.ac.jp

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