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2022/09/07 研究成果
リンパ節の精密なフィルター構造の実態 〜異物から体を守る濾過システム〜

リンパ節は全身に存在する免疫器官の一種であり、免疫応答を誘導するために重要な場所です。また、リンパ節はリンパ管につながり、体液(リンパ液)中の老廃物や異物・病原体を除去する役割も担っています。今回、新潟大学大学院医歯学総合研究科 免疫・医動物学分野の片貝智哉教授らの研究グループは、濾過装置として働くリンパ節内の特殊な構造とマクロファージの機能を明らかにしました。さらに、リンパ液の流れに沿って連続的に配置されたリンパ節で段階的な濾過が行われることによって、体内への異物の拡散が防がれていることを明確にしました。
リンパ節の組織・解剖学的な構造に関する理解が進んだことで、さまざまな感染症や免疫疾患の治療法開発に向けた基礎となることが期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・リンパ節には物質や病原体を濾過するための特殊なフィルター構造(SMB)が備わっている
・このフィルター構造は網目状のリンパ管内皮細胞と髄洞マクロファージから構成される
・リンパ節の連続的な配置とフィルター構造により、体内への異物や病原体の拡散を防いでいる
 
Ⅰ.研究の背景
全身に張り巡らされたリンパ管(注1)の要所には多くのリンパ節(注2)が存在しています。リンパ節は最大でも10mmほどの小さな臓器ですが、リンパ球をはじめとした免疫細胞が集中し、リンパ液の濾過と免疫応答を誘導するための重要な場として知られています。
リンパ節の組織構造は大まかに皮質と髄質に分かれ、皮質にはリンパ球が高密度に集積していますが、髄質は比較的細胞の密度が低く、血管やリンパ洞が入り組んだ複雑な構造をとります。また、髄質には多数のマクロファージ(注3)が集積しており、リンパ液中の異物を取り込むことでリンパ液の濾過に関与していることが知られていました。しかし、実際にどのような構造や細胞の性質が必要なのか詳しくはわかっていませんでした。本研究グループは「リンパ液の濾過機能」という観点から、この小さな臓器の緻密で複雑な構造を観察しました。
 
Ⅱ.研究の概要・成果
リンパ節のどの部分で異物が濾過されているのかを調べるために、蛍光色素(FITC)で標識したデキストラン(6ナノメートルほどの微小粒子)をマウスの皮下に投与し、リンパ管を流れてリンパ節に到達したところを蛍光顕微鏡で観察しました。するとリンパ節内の特定の領域に強い蛍光シグナルの集積が認められました。この領域にはリポ多糖類のような低分子や、卵白アルブミンなどのタンパク質成分も集積します。そのため私達はこの領域がリンパ節の濾過機能に重要な場所であると考え、辺縁髄洞接続帯(SMB)と名付けてさらに詳しく調べることにしました(図)。
蛍光デキストランが集積した領域を拡大すると小粒状に見えることから、マクロファージが蛍光デキストランを取り込んでいると考えられました。そこでフローサイトメトリーを用いて解析を行った結果、特に髄洞マクロファージと呼ばれる特定の細胞が蛍光デキストランを取り込んでいること、さらにこのマクロファージはSMBに限局していることが判明しました。またSMBを詳細に観察すると、リンパ洞内皮細胞が網目状の形態をとり、密なネットワーク構造を形成していました。これらのことから、リンパ節のフィルター機能には独特な組織構造と特殊なマクロファージの局在が重要だと言えます。
一方、体内でリンパ液が流れる経路の途中には複数のリンパ節が点在し、リンパ液を順次濾過していると考えられています。マウスの後肢足底を起点にした場合、最低でも3つのリンパ節を通過し、さらに迂回路や別経路も存在します。後肢足底に蛍光デキストランを投与し、流域の各リンパ節を個別に解析すると、最初の浸出部位である膝窩リンパ節で蛍光デキストランの取り込み量が最も多く、下流にいくほど減少する傾向にありました。また、それらはおもに髄洞マクロファージによって効率的に取り込まれていました(図)。さらに、リンパ節のマクロファージを事前に除去しておくと、後肢足底に投与した蛍光デキストランが血中へ漏れ出てしまうことがわかりました。したがって、マクロファージが個々のリンパ節のフィルター機能に重要であり、さらにいくつも連なったリンパ節が協調的に働くことで、異物の体内拡散を効率よく防いでいることが明らかになりました。
以上のことから、戦略的に配置されたリンパ節が多重の関所としてリンパ液を段階的に濾過し、これには各リンパ節の特別なフィルター構造が重要であるといえます。身体に備わった精密な濾過システムが、生体防御の「要」になっていると考えられます。

Ⅲ.今後の展開
リンパ節の濾過機能は初期の生体防御に非常に重要であると考えられます。本研究では、その独特な構造やマクロファージの機能を明らかにしました。しかし、なぜリンパ節の特定の場所にフィルター機能を集約させる必要があるかは未だ不明です。また、リンパ節は獲得免疫応答を誘導する場でもありますが、SMB領域を含む複雑な構造により成り立つリンパ節の髄質領域でどのように免疫応答が進行するかは良くわかっていません。もしかすると、異物や病原体をSMB領域に集約させることが獲得免疫応答の効率的な誘導に必要なのかもしれません。今後は髄質側で起こる応答をより詳細に解析することが重要となります。
このように、リンパ節の構造を詳しく調べ、免疫をより深く理解することにより、感染症やアレルギー性疾患、自己免疫疾患、癌など、さまざまな疾患の治療法の開発に向けた基盤になると考えられます。
 
Ⅳ.研究成果の公表
本研究成果は、2022年6月20日(日本時間)、Frontiers in Cell and Developmental Biology誌に掲載されました。
論文タイトル:Micro- and Macro-Anatomical Frameworks of Lymph Nodes Indispensable for the Lymphatic System Filtering Function.
著者:Madoka Ozawa, Shihori Nakajima, Daichi Kobayashi, Koichi Tomii, Nan-Jun Li, Tomoya Watarai, Ryo Suzuki, Satoshi Watanabe, Yasuhiro Kanda, Arata Takeuchi, Tomoya Katakai
doi: 10.3389/fcell.2022.902601
 
 
【用語説明】
(注1)リンパ管・・・全身に張り巡らされた血管とは異なる管状の構造で、体液(リンパ液)を回収して血液循環に戻す役割がある。リンパ管内皮細胞という特殊な細胞により管構造が作られている。
(注2)リンパ節・・・リンパ管の途中に存在する豆状の小さな臓器で、ヒトでは全身に600個程度が分布している。リンパ管を流れるリンパ液を濾過する働きがあるとともに、内部にはリンパ球が豊富に存在し、免疫応答が誘導される重要な場所である。
(注3)マクロファージ・・・大食細胞とも呼ばれる免疫細胞の一種。さまざまな老廃物や異物を細胞内に取り込む性質(貪食能)が強く、体に侵入した微生物などを貪食して消化することで感染を防ぐ役割がある。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
免疫・医動物学分野
教授 片貝 智哉(かたかい ともや)
E-mail:katakai@med.niigata-u.ac.jp

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