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2022/12/07 研究成果
慢性腎臓病患者さんの食事療法に光明! 〜低たんぱく質ごはんの使用が食事療法のアドヒアランス向上をもたらすことが示されました〜

慢性腎臓病(CKD)患者さんは国内に1330万人いるとされており、新たな国民病とも呼ばれています。食事療法は重要な治療法の一つですが、なかでもたんぱく質制限はその中心とされています。しかしその方法論は確立しておらず、低たんぱく質ごはんの有用性も明らかではありませんでした。そこで、新潟大学(大学院医歯学総合研究科腎研究センター病態栄養学講座 細島康宏特任准教授、蒲澤秀門特任助教ら)および亀田製菓株式会社、サトウ食品株式会社、株式会社バイオテックジャパン、ホリカフーズ株式会社との共同研究により「慢性腎臓病患者における治療用特殊食品(低たんぱく質米)の使用がたんぱく質摂取量に与える効果に関する多施設共同無作為化比較試験」を行いました。その結果、低たんぱく質ごはんの使用がCKD患者さんの食事療法における、たんぱく質制限のアドヒアランス(注1)を向上させるだけでなく、腎障害の程度を示す尿蛋白量を減少させました。現在、低たんぱく質ごはんを用いた長期試験を行っており、腎機能低下抑制効果を検証していく予定です。
 
【本研究成果のポイント】
・低たんぱく質ごはんの使用がCKD患者さんの食事療法のアドヒアランスを向上させました。
・低たんぱく質ごはんを用いた食事療法により尿蛋白量が減少しました。
 
Ⅰ.研究の背景
末期腎不全に伴う透析患者数は世界的に増加の一途であり、本邦でも30万人を越えています。さらに、その予備軍であるCKD患者さんの数は成人の約8人に1人と推計されており、本邦においても新たな国民病という名に値する規模と考えられます。一般的に、CKDの進行は薬物療法を始めとする現状の診療のみでは抑制することが困難なことが多く、近年、CKD患者さんにおける食事療法の重要性が見直されてきています。一方で、CKD患者さんにおける食事療法のエビデンスは世界的にみても不十分であり、その構築が早期に望まれていますが、特にその中心となるのはたんぱく質制限です。しかし、長年にわたり世界的に研究され議論されてきたにも関わらず、たんぱく質制限が腎機能低下速度を抑制するか否かについては結論が得られていません。問題点として、これまで行われてきた臨床研究においては、示された「たんぱく質摂取量」が遵守されていないものが多く、食事療法の臨床研究が極めて困難であることが挙げられます(日常診療においてもたんぱく質制限の遵守は難しい場合が多いです)。そこで本臨床研究においては、CKD患者さんにおいて推奨されるたんぱく質制限食を遂行する上で、治療用特殊食品(低たんぱく質米)すなわち低たんぱく質ごはんの使用がそのアドヒアランスの向上に有効であるかについて検証を行いました。
 
Ⅱ.研究の概要
新潟大学および7関連病院のCKD患者さん(ステージG3aA2〜G4)102名を対象として、24週間、4週毎の栄養指導のみを行う群(非使用群)と、加えて低たんぱく質ごはん(2回/日以上)を使用する群(使用群)に無作為に分け、たんぱく質制限(0.7g/kg標準体重/日)を遂行する上での低たんぱく質ごはんの有効性を検討しました(臨床研究登録番号:UMIN000015630)。たんぱく質摂取量の推算には蓄尿検査の結果を用いマロニーの式により算出しました。
 
Ⅲ.研究の成果
たんぱく質摂取量は低たんぱく質ごはん非使用群(49/51例完遂)において0.99gから0.91/kg標準体重/日、低たんぱく質ごはん使用群(50/51例完遂)では0.99gから0.80/kg標準体重/日に減少しました。開始時の摂取量で調整したたんぱく質摂取量は、使用群が非使用群に比して24週時点で0.11g/kg標準体重/日減少していました(図)。2群間における尿蛋白量の変化は、24週の時点で非使用群が0.07g/日、使用群は-0.30g/日と明らかに使用群において減少していました。なお、2群における24週時点の腎機能を示すクレアチニンクリアランス(注2)に有意差はありませんでした。

Ⅳ.今後の展開
今後は、より長期の検討における低たんぱく質ごはんを用いたたんぱく質制限が腎機能低下速度を抑制するか否かについての検証が必要と考えられます。そこで、2019年から「慢性腎臓病患者における治療用特殊食品(低たんぱく質米)の使用が腎機能低下速度に与える効果に関する多施設共同無作為化比較試験(RICE2研究)」を開始しており、最終的に100名以上のCKD患者さんの同意が得られ、現在も研究を継続しています。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2022年11月24日、Kidney360誌(アメリカ腎臓学会編)に掲載されました。
論文タイトル: Efficacy of low-protein rice for dietary protein restriction in CKD patients: A multicenter randomized controlled study
著者:Michihiro Hosojima, Hideyuki Kabasawa, Ryohei Kaseda, Tomomi Ishikawa-Tanaka, Yoshitsugu Obi, Toshiko Murayama, Shoji Kuwahara, Yoshiki Suzuki, Ichiei Narita, Akihiko Saito
doi: https://doi.org/10.34067/KID.0002982022
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、2014〜2016年度における、新潟県医療用途食品機能性研究事業補助金採択事業の一環として行われました。
 
 
【用語解説】
(注1)アドヒアランスとは患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味します。例えば、患者さんが薬の内服を遵守している場合には、服薬アドヒアランスが良好であるといった表現がなされることが多いです。
(注2)腎臓が1分間にどの程度の仕事をしているかを表す指標です。日常臨床の場では、24時間の蓄尿検査を行い、尿中のクレアチニン量、血清クレアチニン値、尿量から24時間内因性クレアチニンクリアランスとして計算されていることが多いです。

研究に関する説明動画
https://drive.google.com/file/d/1uydpL5n1cFxM2qtoDbnTk4LjIlt68bOw/view?usp=sharing

本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
腎研究センター 病態栄養学講座
特任准教授 細島 康宏(ほそじま みちひろ)
E-mail:hoso9582@med.niigata-u.ac.jp

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