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2023/09/28 研究成果
説明可能なAIによる将来の体重予測 〜3年先までの体重予測で健診現場や患者指導支援に応用できる可能性〜

新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授らの研究チームとNECソリューションイノベータ株式会社(本社:東京都江東区、代表取締役 執行役員社長:石井力、以下NECソリューションイノベータ)の合同研究チームは、2年間の健康診断の結果をもとに、食事内容や運動習慣の変化に応じて、その後3年間の体重がどのように推移するかを、同社開発の人工知能(AI)で予測できる可能性を示しました。
さらに、異種混合学習技術を用いることで、従来人工知能が抱えていた「AIのブラックボックス問題」にも対応できるようになりました。
本研究成果は、2023年6月15日、国際専門誌「Frontiers in Public Health」(IF:5.2)に掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・説明可能なAIにより、食事内容や運動習慣の改善に伴う3年間の体重推移を予測できる可能性を示した。
・本研究による体重予測は、従来の回帰分析と同程度の予測精度を持ち、より迅速かつ効率的である。
 
Ⅰ.研究の背景
生活習慣は体重に大きく影響し、肥満は2型糖尿病、高血圧などの生活習慣病の原因となることから、適切な体重の認識と管理が大切です。
医療現場でもAIの活用が期待されていますが、AIは、その判断が正確である一方で、その答えがどのように考えて出されたかが不明瞭であり、「AIのブラックボックス」として懸念されています。医療現場では判断基準が重要であるため、根拠の不明なAIの使用は難しいとされてきました。従来の研究では、AIを用いた将来の体重推移は、予測期間が短いため、生活習慣の変化の影響が十分に考慮されていませんでした。
 
Ⅱ.研究の概要
本合同研究チームは、同社が開発した健診結果予測シミュレーションプログラムと新潟県労働衛生医学協会が持つ健康診断に関するビッグデータを利用して、2年間にわたる4万5千人の食事内容や運動習慣、体重の変化をはじめとした膨大な情報を、異種混合学習を用いたAIに学習させることで、その後3年間の体重の推移を予測できるかについて検証を行いました。その結果、AIは3年間の体重推移を、従来の回帰分析と同程度予測できることが明らかとなりました。従来、深層学習をはじめとしたAIが構築したモデルの内部については、それぞれの影響がどの程度影響したかが不明瞭であり、「AIのブラックボックス」とされていましたが、異種混合学習技術を用いることにより、本研究結果における予測モデルは医療従事者や患者が理解しやすいものとなりました。
 
Ⅲ.研究の成果
本研究では新潟県労働衛生医学協会で健康診断を受診した、生活習慣、肥満度、血圧、血液検査などの5年間のデータを有する19歳以上の5万人を対象とし、調査しました。そのうち、4万5千人の2年間のデータを使用し、異種混合学習を用いることで、その後3年間の体重推移を予測するモデルを作成しました。次に、5千人の検証用データを用い、このモデルの正確性を検証しました。その結果、異種混合学習は、集団を自動的に5つのグループに分割し、それぞれのグループごとにその後3年間の体重推移を予測するモデルを構築しました(図1、表1)。さらに、構築された5つのモデルは、これまでの回帰分析と同程度の予測精度を示すことが明らかになりました。
本研究結果から、異種混合学習技術を使用したモデルにより2年間の健康診断結果を利用することで、その後3年間の体重の推移を予測するモデルを作成できる可能性が示されました。これにより、さらに複雑な予測式を作成し検証するために時間を費やす必要が削減され、医療スタッフの負担が減少することが期待されます。ただし、実際の現場で導入される前には、本研究の集団以外で体重の推移を予測できるかを十分に検証する必要があります。
 
Ⅳ.今後の展開
近年、生活習慣の多様化により、それぞれの人の特性に応じた指導を目指すことが重要とされています。そのためには、まず現在の生活習慣を正確に把握し、改善のための具体的なアドバイスを提供することが大切です。本研究により、現在の食事内容、飲酒習慣、運動習慣を続けた場合、1〜3年後に体重がどうなるのか、また生活習慣を改善した場合は、どの程度改善するのかについて具体的に示すことで、個人に合わせた生活指導を提供できる可能性があります。また、本研究で使用された異種混合学習技術は、医療従事者や患者にも理解しやすいものとなっており、データから迅速かつ自動的に予測モデルを構築することができるため、健康診断の現場での活用が期待され、国民の予防医療に広く貢献できる可能性があります。
今後は体重の推移に限らず、説明可能なAIを用いて、健康診断や日常診療を支援するAIシステムの構築を目指し、さらなる研究を進める予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2023年6月15日、国際専門誌「Frontiers in Public Health」(IF:5.2)に掲載されました。
論文タイトル:Machine learning approach to predict body weight in adults
著者:Kazuya Fujihara, Mayuko Yamada Harada, Chika Horikawa, Midori Iwanaga, Hirofumi Tanaka, Hitoshi Nomura, Yasuharu Sui, Kyouhei Tanabe, Takaho Yamada, Satoru Kodama, Kiminori Kato and Hirohito Sone
doi: 10.3389/fpubh.2023.1090146

本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野
(健康寿命延伸・生活習慣病予防治療医学講座)
特任准教授 藤原 和哉(ふじはら かずや)
E-mail:kafujihara-dm@umin.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp

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