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2023/10/26 研究成果
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態と脳内ペプチド動態の関与を解明

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態には、肥満や糖尿病など様々な要因が複雑に関与し、多くの臓器にも合併症を引き起こします。そして、世界的にもその患者数が増加の一途をたどっていることから、全身を診る視点でその病態を解明する必要があります。
今回、新潟大学医学部医学科総合診療学講座/大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の上村顕也特任教授、同分野の永山逸夫(大学院生)、寺井崇二教授らの研究グループは、NAFLDの病態に脳内ペプチド(注1)の動態が関与していることを解明しました。
 
【本研究成果のポイント】
・NAFLDは全身臓器にも合併症を引き起こす疾患で、明確な病因は未解明です。
・今回、NAFLDの発症や進展に、肝臓、脳、腸を繋ぐ自律神経経路(注2)が関与していることを明らかにしました。
・胃から分泌されるグレリン(注3)が、神経伝達により下垂体から成長ホルモンを放出させること、血液の流れにのった成長ホルモンが肝臓からインスリン様成長因子1を分泌させることによりNAFLDの進行を制御していることを解明しました。
・NAFLDの病態初期に、脳内ペプチドが、成長ホルモンとインスリン様成長因子1経路を活性化し、生体防御メカニズムを機能させることを明らかにしました。
 
Ⅰ.研究の背景
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)には生活習慣、遺伝的素因、環境要因を含む様々な要因が複雑に関与し、多臓器にも合併症を引き起こします。本研究グループは、NAFLDの病態に自律神経を介する肝―脳―腸連関が関与し、セロトニン(注4)などの消化管ホルモンが腸内細菌叢、腸管バリア機能や下垂体ホルモンに影響して、NAFLDの進行に関与していることを明らかにしました。また、NAFLD進行期に、成長ホルモンの分泌を促す胃グレリンが肝臓からインスリン様成長因子1を分泌させて病態を制御すべく活性化していることも明らかにしました。
これまでは、小児肥満などとも深く関与するNAFLDの病態初期に成長ホルモンーインスリン様成長因子1軸が活性化しているかどうかは、解明されていませんでした。そこで、本研究グループはこの課題を解明するため、次の研究を行いました。
 
Ⅱ.研究の概要
NAFLDモデルマウスを対象として、
NAFLDの病態初期に、自律神経経路を遮断して胃グレリンの発現を制御し、NAFLDの病態を検討しました。
胃グレリンが抑制されている状況で、NAFLDの病態初期に成長ホルモンーインスリン様成長因子1軸の動態を検討しました。
成長ホルモンの放出を制御する脳内ペプチドの変化を検討しました。
 
Ⅲ.研究の成果
病態初期に自律神経経路を遮断したNAFLDモデルマウスで胃グレリン発現の抑制に成功しました。興味深いことにこれらのモデルマウスでは、成長ホルモンーインスリン様成長因子1軸が活性化しており、胃グレリン以外に成長ホルモン分泌を活性化する機構の存在が示唆されました。
そこで、脳内ペプチドの解析を行ったところ、脳由来神経栄養因子であるBrain-derived neurotrophic factor(BDNF)と副腎皮質刺激ホルモン放出因子であるCortictropin releasing factor(CRH)の発現が低下し、成長ホルモン分泌は活性化していました(図1)。またこれらの変化は、BDNF、CRHの上流因子で、食欲にも関連するメラノコルチン4受容体が欠損したマウスでは認められませんでした。

Ⅳ.今後の展開
本研究の結果から、NAFLDの初期段階においては、胃グレリンの発現に関与する末梢自律神経経路と脳内ペプチドなどの中枢性神経伝達物質が、NAFLDの病態進行抑制を相補的につかさどっている可能性が示唆されました。この効果は脳内で食欲が制御できないマウスでは弱いことから、NAFLDの病態の段階に応じて、制御すべき神経経路(中枢性あるいは末梢性)を解明するための基盤的成果になる可能性があります。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2023年10月21日、科学誌「Hepatology International」(IF 6.6)に掲載されました。
論文タイトル:Complementary Role of Peripheral and Central Autonomic Nervous System on Insulin-Like Growth Factor-1 Activation to Prevent Fatty Liver Disease
著者:Itsuo Nagayama, Kenya Kamimura, Takashi Owaki, Masayoshi Ko, Takuro Nagoya, Yuto Tanaka, Marina Ohkoshi, Toru Setsu, Akira Sakamaki, Takeshi Yokoo, Hiroteru Kamimura, and Shuji Terai
doi: 10.1007/s12072-023-10601-1
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(18K19537、21K19478)、大樹生命厚生財団第54回医学研究助成、大樹生命厚生財団第32回医学研究特別助成の支援を受けて行われました。
 
 
用語解説
注1:脳内ペプチド
脳内に存在する、神経伝達や精神活動を仲介する生理活性ペプチドのことです。ペプチドとは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合した化合物のことです。
 
注2:自律神経経路
交感神経系と副交感神経系の2つの神経系で構成される末梢神経経路です。内臓の機能を調節する遠心性経路と内臓からの情報を中枢神経系に伝える求心性経路の2つの経路から成り立ちます。
 
注3:グレリン
胃で産生されるホルモンです。食欲に関連しています。
 
注4:セロトニン
消化管、血小板、中枢神経系に広く分布する生理活性アミンのことです。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医学部医学科総合診療学講座/大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
特任教授 上村 顕也(かみむら けんや)
E-mail:kenya-k@med.niigata-u.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp

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