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2024/02/07 研究成果
血液透析患者のかゆみに関連する分子群(ウレミックトキシン)を発見

新潟大学医歯学総合病院血液浄化療法部の山本卓病院教授、同病院高度医療開発センターの北村信隆特任教授、同病院臨床研究推進センターの田中崇裕助教、同大学大学院医歯学総合研究科腎・膠原病内科学分野の成田一衛教授らの研究グループは、血液透析患者のかゆみの実態とそれに関連する因子について調査しました。その結果、血液透析(注1)患者ではかゆみの合併が多く、タンパク結合性の高いウレミックトキシン(注2)と関連することが明らかになりました。
 
【本研究成果のポイント】
・血液透析患者は、日常的にかゆみを自覚し、全身に分布していることを示しました。
・腎臓病で体内に増加するタンパク結合性の高いウレミックトキシン(protein-bound uremic toxins, PBUT)5種から「PBUTスコア」を作成しました。
・PBUTスコアはかゆみと関連しました。
 
Ⅰ.研究の背景
進行した慢性腎臓病(注3)患者には血液透析をはじめとする腎代替療法(注4)が必要となります。血液透析患者は、様々な症状を伴い、生活の質や活動度が保たれていない場合が多いです。
かゆみは血液透析患者に高頻度に発症する症状の一つです。その原因は不明な点が多いですが、2000年に新潟県で行われた調査では、73%の血液透析患者にかゆみが認められ、それはβ2-ミクログロブリン、カルシウム、リン、あるいは副甲状腺ホルモンの血中濃度高値と関連しました。その後、血液透析療法と薬物治療の改良により、血液透析患者のかゆみの重症度と関連する因子が変化している可能性があることがわかりました。
ウレミックトキシンは腎臓病で血中濃度が増加し、腎臓病に伴う全身疾患や予後と関連する分子群です。ウレミックトキシンは、分子量の大きさと蛋白結合性の強さで分類されます。最近の透析療法の進歩により、蛋白結合性の小さく分子量が小さいウレミックトキシンは効率的に除去できるようになりました。しかし、インドキシル硫酸をはじめとする蛋白結合性の高いウレミックトキシン(protein-bound uremic toxins, PBUT)は、血液中でアルブミンをはじめとする大きい分子と結合しているため、透析療法で除去されにくく、血液透析患者の様々な病態に関連すると報告されています。しかしこれまで透析患者のかゆみとPBUTの関連については報告がありませんでした。
そこで、血液透析患者のかゆみの詳細と、それに関連する因子(特にPBUTに着目)について調査しました。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究では、新潟県透析施設の血液透析患者135名を調査しました(2017-2018年)。
かゆみの程度を総合的に評価できる5D-itch scale(注5)という方法で血液透析患者のかゆみの程度を評価すると、38%の患者がかゆみを有し(図1)、背中をはじめ全身に分布していました(図2)。

インドキシル硫酸、p-クレシル硫酸、インドール酢酸、フェニル硫酸、そして馬尿酸のPBUTを主成分分析によりPBUTスコアを作成したところ、かゆみを有する患者群の方が、かゆみのない患者群と比較して高値であり(図3)、かゆみと関連があることが示されました。一方で過去に関連が示された、β2-ミクログロブリン、カルシウム、リン、そして副甲状腺ホルモンとかゆみの関連はありませんでした。

以上から、血液透析患者のかゆみに、PBUTが関連することが示されました。過去の報告と比較して頻度が減少したことは、カルシウム、リンなどの治療の進歩によるかもしれません。
 
Ⅲ.研究の成果
かゆみは血液透析患者にとって、いまだに重要な症状であることがわかりました。かゆみはPBUTスコアと関連することが示されました。
 
Ⅳ.今後の展開
PBUTを総合的に除去するような治療が血液透析患者のかゆみを改善するかもしれず、治療法の開発が望まれます。
PBUTスコアはウレミックトキシンの状態を総合的に評価することができ、透析に関連する他の疾患にも応用できる可能性があります。
本研究は横断研究です。今後は縦断研究を行いPBUTとかゆみの変化を観察する必要があります。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2024年1月9日、科学誌「Clinical Kidney Journal」に掲載されました。
論文タイトル:Pruritus and protein-bound uremic toxins in patients undergoing hemodialysis: a cross-sectional study
著者:Suguru Yamamoto, Takahiro Tanaka, Kentaro Omori, Isei Ei, Kaori Kikuchi, Ayano Konagai, Shin Goto, Nobutaka Kitamura, Ichiei Narita
doi: 10.1093/ckj/sfae007
 
 
【用語解説】
(注1)血液透析
腎機能が低下した患者に対して、体外で、血液の老廃物や水分を除去し、血液を浄化する腎代替療法の一つ。
 
(注2)ウレミックトキシン
腎臓病が進行すると、様々な分子が腎臓から排泄されなくなる、あるいは体内での産生が増えるために、体内に蓄積する。それらのうち、血中濃度が増加し、症状に関連する分子群をウレミックトキシンと総称する。
 
(注3)慢性腎臓病
糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎、などを原因に慢性に経過する腎臓病。
 
(注4)腎代替療法
腎機能が高度に低下した際に選択される腎臓の代わりとなる、あるいはサポートする治療方法。主に血液透析、腹膜透析、そして腎移植がある。
 
(注5)5D-itch scale
かゆみを総合的に評価する検査法。かゆみの持続、程度、傾向、悪影響、そして分布からなる。5点(かゆみなし)から25点(極度のかゆみ)に点数化してかゆみの状態を評価する。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医歯学総合病院 血液浄化療法部
病院教授 山本卓(やまもとすぐる)
E-mail:yamamots@med.niigata-u.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp

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