
透析の治療期間とフレイルの関連を発見 −日本が誇る超長期透析患者の病態と課題−
新潟大学医歯学総合病院血液浄化療法部の山本卓病院教授、福島県立医科大学大学院医学研究科臨床疫学分野の栗田宜明特任教授、新畑覚也博士研究員、九州医療科学大学薬学部の戸井田達典准教授、東京女子医科大学医学部血液浄化療法科の花房規男准教授、日本大学医学部腎臓高血圧内分泌内科学分野の阿部雅紀教授の研究グループは、日本透析医学会統計調査データベースのデータを解析し、透析(注1)患者の透析期間が長期化するとフレイル(注2)・寝たきりの頻度が高くなることを発見しました。
【本研究成果のポイント】
・日本では透析歴30年以上の超長期透析患者が多く、世界で例を見ません。
・透析患者は長期間の透析治療で様々な合併症を呈します。
・透析患者の透析期間とフレイル・寝たきりの関連を解析したところ、透析期間が長期になるほど、フレイル・寝たきりの頻度が高くなることが示されました。
Ⅰ.研究の背景
慢性腎臓病(注3)が高度に進行すると血液透析をはじめとする腎代替療法(注4)が必要となります。とくに透析を続ける方の中にはフレイル・寝たきりとなり、通院や日常生活が制限されている方が多くいます。近年、日本では透析期間30年以上の超長期透析患者が増加する傾向にありますが、それらの臨床的な特徴は明らかではありませんでした。
そこで、超長期透析患者の特徴を明らかにし、透析期間とフレイル・寝たきりとの関連を調査しました。
Ⅱ.研究の概要
日本透析医学会統計調査データベースから2018年のデータを横断的に解析しました。当時50歳以上の透析患者は227,136名でそのうち透析歴30年以上の症例は5,510名(2.4%)でした。
解析の結果、透析歴30年以上の症例の特徴は、他の透析期間の症例と比較して、男性の割合が小さく、糖尿病の合併が少なく、認知症が少なく、栄養指標が悪い傾向にあることがわかりました。一方、大腿骨骨折と手根管症候群(注5)の手術既往が多い傾向がありました。
年齢の影響とは別に、透析期間が長い患者は短い患者と比較して、フレイルあるいは寝たきりの有病率が増加しました(下図)。

Ⅲ.研究の成果
透析期間の長期化は透析患者の身体機能の低下に関連することが示唆されました。骨折や脳梗塞などフレイル・寝たきりの原因となるような背景因子で調整した結果であり、現在の透析療法では対応できていない、未発見な課題がある可能性が考えられます。
Ⅳ.今後の展開
この研究は透析患者の透析期間とフレイル・寝たきりを調査した横断研究です。今後、どのような背景因子が長期透析患者のフレイル・寝たきりの発症に関連するかということを明らかにする縦断研究が必要です。将来、透析療法を長期間継続しても慢性腎臓病患者の身体機能が保たれる医療が提供されることにつながるため、透析療法の問題点の解明と解決を目指したさらなる研究が期待されます。
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2024年6月12日、科学誌「American Journal of Kidney Diseases」に掲載されました。
論文タイトル:Frailty and duration of maintenance dialysis: A Japanese nationwide cross-sectional study
著者:Suguru Yamamoto, Kakuya Niihata, Tatsunori Toida, Masanori Abe, Norio Hanafusa, Noriaki Kurita
doi: 10.1053/j.ajkd.2024.04.012
【用語解説】
(注1)血液透析
腎機能が低下した患者に対して、体外で、血液の老廃物や水分を除去し、血液を浄化する腎代替療法の一つです。
(注2)フレイル
加齢や疾患により、身体的に、あるいは精神心理的に脆弱となる状態。重度となると生活を送るために支援を受ける必要があります。
(注3)慢性腎臓病
糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎などを原因に慢性に経過する腎臓病です。
(注4)腎代替療法
腎機能が高度に低下した際に選択される腎臓の代わりとなる、あるいはサポートする治療方法。主に血液透析、腹膜透析、そして腎移植があります。
(注5)手根管症候群
手根管内にある正中神経が圧迫されるため手指のしびれ、痛み、あるいは筋力低下を来します。透析期間の長期化に伴い発症する合併症の一つで透析アミロイドーシスが原因です。

本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医歯学総合病院血液浄化療法部
病院教授 山本 卓(やまもと すぐる)
E-mail:yamamots@med.niigata-u.ac.jp
福島県立医科大学大学院医学研究科臨床疫学分野
特任教授 栗田 宜明(くりた のりあき)
E-mail:kuritan@fmu.ac.jp
九州医療科学大学薬学部薬学科
准教授 戸井田 達典(といだ たつのり)
E-mail:t.toida@med.miyazaki-u.ac.jp
日本大学医学部腎臓高血圧内分泌内科学分野
教授 阿部 雅紀(あべ まさのり)
E-mail:abe.masanori@nihon-u.ac.jp
【広報担当】
新潟大学広報事務室
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福島県立医科大学広報コミュニケーション室
E-mail:pr-str@fmu.ac.jp
九州医療科学大学入試広報室
E-mail:kouhou@phoenix.ac.jp
日本大学医学部研究事務課
E-mail:med.kenjim@nihon-u.ac.jp



