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2024/09/04 研究成果
肺炎球菌ワクチンを接種している高齢者では認知症が2割以上少ない 〜インフルエンザワクチンでは、接種した人としなかった人の間で認知症発症に差がない〜

インフルエンザワクチンまたは肺炎球菌ワクチンを接種している高齢者では、これらのワクチンを接種していない高齢者と比べて認知症が少ないという研究結果が最近相次いでおり、これら2つのワクチンが認知症予防に効果があるのではないかと期待されています。その一方で、これら2つのワクチンは両方とも高齢者に推奨されており、両方のワクチンを接種している高齢者が大部分を占めます。そのため、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンのどちらが認知症予防と関連するのかは不明でした。
新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野の齋藤孔良助教、同大学の藤井雅寛名誉教授、慶應義塾大学の佐藤豪竜専任講師、千葉大学の近藤克則特任教授の研究グループは、約1万人の高齢者を3年半追跡し、肺炎球菌ワクチンを接種していた人では接種しなかった人と比べ認知症が23%少なかったことを明らかにしました。その一方で、インフルエンザワクチンでは、接種した人と接種しなかった人の間で認知症発症に差は認められませんでした。

【本研究成果のポイント】
・肺炎球菌ワクチン接種を受けた高齢者では認知症が23%少なかった。
・インフルエンザワクチンでは、高齢者の認知症発症に差が認められなかった。
 
Ⅰ.研究の背景
認知症の高齢者は世界中で増え続けており、日本では、要介護になる最多の原因が認知症です。認知症予防には、禁煙や運動、社会的つながりの維持が効果的と考えられています。しかしながら、それらの予防法は、人々の努力や健康への意識の高さに大きく依存しています。一方で、インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹等のワクチン接種を受けた高齢者では、ワクチン接種を受けていない高齢者と比べて認知症が少ないという報告が最近相次いで報告されています。認知症の減少と関係するという結果が最も多く報告されているのはインフルエンザワクチンです。これらの研究はアメリカ、イギリス及び台湾の高齢者を対象にしています。しかしながら、これらの国々では、多くの高齢者が2つのワクチンを接種しています。そのため、2つのワクチンのどちらが認知症の減少と関係しているのかが不明でした。更に、過去の研究のほぼ全てが医療受診データを用いていたため、教育年数やフレイル等、認知症と深い関係にあるが医療受診データに記録されていない要素が研究結果に影響している可能性を否定できていませんでした。そこで、本研究グループは、心臓病等の認知症のリスクを上げる病気だけでなく、社会経済的状況やフレイルが認知症に影響している可能性を取り除いた上で、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンのどちらが認知症減少と関係するのかを調べました。
 
Ⅱ.研究方法
2013年に、65歳以上で要介護認定を受けていない約1万人の高齢者を対象に、認知症の発症に影響する可能性がある年齢、性別、教育歴、婚姻状況、家族構成、喫煙、飲酒、高、中、低強度の運動の頻度、BMI(30以上か否か)、心臓病、高血圧、糖尿病、耳の病気、呼吸器の病気、老年うつ、フレイル、肺炎及びインフルエンザの罹患歴、ワクチン接種歴、社会的つながり(社会参加、社会的結束、相談できる人がいるか等)について調査しました。2016年に、肺炎球菌ワクチン及びインフルエンザワクチン接種に関して調査し、2016年の調査後の3年半または6年5か月にわたり、認知症による要介護認定(日常生活を送るためにサポートが必要)を受けたか否かを追跡調査しました。肺炎球菌ワクチンまたはインフルエンザワクチン接種後に認知症が減少したのかについては、ワクチン接種以外の認知症発症に関係する要因の影響を統計学的方法で取り除いた上で、ワクチンを接種したグループと接種していないグループの間で認知症発症に差があるかを計算しました。
 
Ⅲ.研究の成果
3年半の追跡期間では、肺炎球菌ワクチンを接種した高齢者は、接種しなかった高齢者と比べて認知症が23%減少していました。インフルエンザワクチンを接種した人を除いても、肺炎球菌ワクチンを接種した高齢者では、接種しなかった高齢者と比べて認知症が55%減少していました。その一方で、インフルエンザワクチン接種では、肺炎球菌ワクチンを接種した人を除いても、接種した人と接種しなかった人の間で認知症発症に統計学的に意味のある差はありませんでした。以上の結果は、6年5か月の追跡期間においてもほぼ同じでした。
 
Ⅳ.今後の展開
今後は、ワクチン接種が認知症予防に効果があるのかについて、無作為抽出試験(注)等で検証する必要があります。また、ワクチン接種がどのようにして免疫システムや脳神経に働きかけて認知症を予防するのかについて明らかにする必要があります。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2024年6月24日、科学誌「Brain, Behavior, and Immunity」に掲載されました。
【論文タイトル】Pneumococcal vaccination, but not influenza vaccination, is negatively associated with incident dementia among Japanese older adults: The JAGES 2013-2022 prospective cohort study
【著者】齋藤孔良、佐藤豪竜、藤井雅寛、近藤克則
【doi】10.1016/j.bbi.2024.06.020
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、JSPS科研費(24K02854、その他)など多くの支援を受けて行われました。
 
【用語解説】
(注)無作為抽出試験:薬などの効果を調べるためによく使われる方法です。薬を服用した人と服用していない人を2つのグループにランダムに分けることで、年齢や性等、薬以外の要因をバランスよく分けることができ、薬の効果の有無を公平に判断できます。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学
助教 齋藤孔良(さいとうこうすけ)
E-mail:anayoshi@med.niigata-u.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp

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