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2016/08/24 研究成果
てんかんや小頭症を伴う遺伝性重度発達障害の原因解明

新潟大学大学院医歯学総合研究科分子遺伝学の小松雅明教授、石村亮輔客員研究員らは、原因不明のてんかんや小頭症を伴う重度発達障害がたんぱく質修飾活性化酵素UBA5をコードする遺伝子の変異によって引き起こされることを突き止めました。
研究成果は、ヘルシンキ大学のAnna-Elina Lehesjoki教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科神経解剖学竹林浩秀教授らとの共同研究で得られたもので、2016年8月18日(米国時間)のThe American Journal Human Genetics誌(IMPACT FACTOR 10.931)に掲載されました。
<<Biallelic variants in UBA5 link dysfunctional UFM1 ubiquitin-like modifier pathway to severe infantile-onset encephalopathy>>
 
研究成果のポイント
1. てんかんや小頭症を伴う重度発達障害患者を持つ欧州の複数の家系を特定した。
2. 遺伝子解析から、たんぱく質の修飾に関わるUBA5酵素をコードする遺伝子に変異を同定した。
3. 患者由来の変異を持つUBA5たんぱく質はその酵素活性が減弱していた。
4. UBA5関連遺伝子を神経細胞で欠失させたマウスは、神経細胞死を伴った小頭症を呈し、生後数日以内に死亡した。
5. 原因不明であった遺伝性重度発達障害の病態発症機構を解明した。
 
研究の背景
たんぱく質は生合成された後、リン酸化、糖鎖付加、脂質付加、メチル化、アセチル化等により修飾され、これら修飾により機能や活性が調節されます。高等生物では遺伝子配列に基づき合成されたたんぱく質が、直接機能を発揮することは少なく、多くは様々な修飾を受けることで機能の多様性が発揮されます。
UBA5はユビキチン様たんぱく質UFM1を活性化する酵素です。UFM1はUBA5酵素により活性化された後、UFC1酵素に転移され、最終的に細胞内の標的たんぱく質を修飾し、たんぱく質の機能変換を担うと考えられています(参考図1)。
 
研究の概要
原因不明であった遺伝性重度発達障害患者の遺伝子解析を行った結果、UBA5たんぱく質をコードする遺伝子に変異があること、さらにその変異によるUBA5酵素活性の減弱が疾患発症の原因であることを突き止めました。
 
研究の成果
今回、小松教授らは、原因不明のてんかんや小頭症を伴う重度発達障害患者を持つ欧州の5家系を特定し、遺伝子解析を行った結果、たんぱく質修飾分子UFM1を活性化する酵素UBA5をコードする遺伝子に変異(351番目のアラニン残基がトレオニン残基に置換する変異とたんぱく質の欠失を伴う変異の複合ヘテロ接合体)があることを発見しました。患者由来の変異を持つUBA5たんぱく質はその酵素活性が減少し(参考図2)、結果的にUFM1によるたんぱく質修飾も障害されました。さらに、中枢神経系特異的にUFM1遺伝子を欠損させたマウスを作成・解析した結果、神経細胞死を伴った小頭症を呈し、生後数日以内に死亡することを見出しました(参考図3)。これらのことは、UFM1たんぱく質修飾機構の異常が、遺伝性重度発達障害を引き起こすことを意味します。
 
今後の研究について
欧州人の0.28%が今回特定したUBA5の遺伝子変異(351番目のアラニン残基がトレオニン残基に置換する変異)キャリアーであり、多数のUBA5変異を有する重度発達障害患者が存在することが予想されます。また、ごく最近、小児性小脳変性疾患患者を持つ中国の1家系からもUBA5の遺伝子変異が報告されました。今後、日本人のUBA5遺伝子変異を持つ患者の検索を行うとともに、UBA5酵素活性を増加させる薬剤のスクリーニングを行うことで臨床応用を目指しています。
 

研究内容に関する問合せ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子遺伝学分野
小松雅明 教授
e-mail:komatsu-ms@med.niigata-u.ac.jp

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