NEWS&TOPICS

2016/12/06 研究成果
若年糖尿病の恐ろしさがビッグデータ解析から明らかに -30代糖尿病男性の虚血性心疾患リスクは、同年代の血糖正常男性の約20倍(加齢20年分に匹敵)

新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科の曽根博仁教授、健康寿命延伸・生活習慣病予防治療医学講座の藤原和哉特任准教授らは、勤労世代において、糖尿病は、狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患の発症に強く影響し、中でも30代の若い世代においてその影響がより大きく、それは20年分の加齢に相当することを明らかにしました。
 
研究成果は、2016年10月4 日、フランスの医学誌Diabetes & Metabolism 誌にオンライン掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・30代の糖尿病は、50代の前糖尿病(糖尿病予備軍)と同程度に冠動脈疾患を発症
・30代では、前糖尿病(糖尿病予備軍)の段階から冠動脈疾患の発症が増加
・30代、40代の糖尿病は、50代の正常耐糖能以上に冠動脈疾患を発症
 
研究の背景と概要
心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患は、男性において女性の約2倍起きやすく、特に中年前後における「働き盛りの突然死」の主な原因として、以前から深刻な問題になっています。一方、糖尿病の大部分を占め、中年以降に多く見られる2型糖尿病の若年化も問題になっており、現在、働き盛り世代(30代〜50代)男性の約8人に1人が糖尿病あるいはその予備軍です(それぞれ6.3%、6.1%)。糖尿病患者は平均的に、血糖正常者の2-4倍虚血性心疾患になりやすいことが知られています。しかし、若年糖尿病については、その悪影響の程度が必ずしも明らかではありませんでした。
新潟大学医学部内科の藤原和哉准教授、曽根博仁教授らが、この世代の男性の診療報酬請求(レセプト)データと健診データとを突き合わせて解析したところ、40代・50代の糖尿病患者では、同年代の血糖正常者と比較し、従来の定説通り約2.5倍(40代2.74倍、50代2.47倍)虚血性心疾患を起こしやすかったのに対し、30代の糖尿病男性では、同年代の血糖正常男性の20倍近く(18.2倍)虚血性心疾患を発症しやすく、そのリスクは血糖正常の50歳代男性に匹敵することが判明しました(=加齢20歳分のリスク上昇)。また30代男性では、いわゆる糖尿病予備軍でも、血糖正常男性の約3倍、虚血性心疾患を発症しやすいことがわかりました。
これらの成果は、国際専門誌(Diabetes & Metabolism)に掲載されました。
 
研究方法と結果の詳細
健康保険レセプトデータベースの分析より、2008年から2012年に健診を受けた、過去に心疾患歴のない31-60歳の男性111621名を抽出し、カテーテル治療やバイパス手術などを要した重症虚血性心疾患の発症を検討しました。さらに高血圧、高LDL(悪玉)コレステロール血症、低HDL(善玉)コレステロール血症、喫煙、肥満などの、既知の虚血性心疾患のリスク因子の影響を除いて(補正して)、血糖正常者と比較して、糖尿病予備軍、糖尿病患者が、どの程度虚血性心疾患を発症しやすいかを年代別に(30代、40代、50代)検討しました。
その結果、追跡期間(中央値)4.1年に436人が冠動脈疾患を発症し、糖尿病患者と血糖正常者を比較すると、40代・50代では、これまでの定説通り両者の差は約2.5倍(40代2.74倍、50代2.47倍)であったのに対し、30代では両者の差は18.2倍と非常に大きく、30歳代の糖尿病男性は、同年代の血糖正常者と比較して約20倍も虚血性心疾患を発症しやすいことが判明しました。その絶対リスクは、50代の血糖正常男性に相当し、糖尿病のリスクは加齢20年分に相当することが判明しました。
また30代男性では、糖尿病のみならず「予備軍」の人においても、同年代の血糖正常者と比較すると2.9倍虚血性心疾患を発症しやすく、40代、50代と比べて、「予備軍」であることの悪影響が強く出ることがわかりました。
さらに40代、50代男性は血糖正常でも、30代と比較すると、それぞれ約10倍、約20倍虚血性心疾患を発症しやすかったのですが、40代、50代男性が糖尿病になると、30代の血糖正常男性の、それぞれ約25倍、50倍も虚血性心疾患を起こしやすいことが判明しました。
糖尿病とその「予備軍」の虚血性心疾患発症に及ぼす悪影響を、年代別に詳細に検討した今回の結果から、特に若年世代における「予備軍」を含む糖尿病の悪影響の大きさが明らかにされました。
 
結果の解釈
今回の研究結果から、30代男性では、糖尿病はこれまで考えられていたより大幅に高い20倍近くも虚血性心疾患リスクを高め、そのリスクは加齢換算で20歳分に相当しました。さらにこの年代男性では、予備軍でも虚血性心疾患リスクが3倍に高まることが明らかになりました。したがって若いからといって安心してよいわけでなく、糖尿病や予備軍など血糖値に異常がある人は、若いうちから、早めに生活習慣改善などの糖尿病治療に取り組むことが重要であることを示しています。(なお女性については、元々男性より虚血性心疾患発症率が低いので、今回のようなビッグデータでも解析にはまだ不十分で、今後さらなるデータの蓄積が必要です)
 
今回の研究の特長(手法の強み)
レセプトデータベースを利用したこれまでの研究の多くは、請求に使われた病名(保険病名)を利用していましたが、現実には、検査の必要上などから、確実な診断がつく前に病名を付けたり、実施した検査とつじつまを合わせるために疑い例や軽症例でも病名を付けたりすることがよくあり、真の疾患発症を正確に把握することは困難でした。
今回は保険病名に頼らず、診療内容を精査することにより、実際に確定診断がついた重症患者にのみ行われる治療処置(心臓カテーテル治療、心臓バイパス手術)を補足することで、心筋梗塞や狭心症など虚血性心疾患の確実な発症者を、全例漏れなく(=レセプトデータの強み)正確に特定することができました。
 
研究成果の公表
本研究成果は、2016年10月,フランスの学術誌「Diabetes & Metabolism」(IF:4.693)に掲載されました。
論文タイトル:Impact of glucose tolerance status on the development of coronary artery disease among working-age men
著者:Fujihara K, Igarashi R, Yamamoto M, Ishizawa M, Matsubayasi Y, Matsunaga S, Kato K, Ito C, Koishi M, Yamanaka N, Kodama S, Sone H.
https:// www.ncbi.nlm.nih.gov/ pubmed/ 27712966
doi: 10.1016/j.diabet.2016.09.001. [Epub ahead of print]
 

 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医学部 藤原和哉 特任准教授
e-mail:kafujihara-dm@umin.ac.jp

最新の記事 ←新記事 一覧へ戻る 前記事→ 最初の記事