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2017/10/30 研究成果
腎臓のタコ足細胞を培養で再現することに成功 −糸球体濾過調節の研究に新たな道を拓く

新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎構造病理学分野の研究グループは、腎糸球体上皮細胞(タコ足細胞)の特異的形態・形質を培養で再現することに世界で初めて成功しました。
 
【本研究成果のポイント】
・タコ足細胞の特異的形態・遺伝子発現を誘導する培養条件を確立した。
・タコ足細胞の特異的形質の誘導には、生体内と同じ細胞密度、細胞外基質(ラミニン)が必要であることを示した。
・糸球体濾過に関わる細胞間結合の著明な増加を誘導できた。
 
Ⅰ.研究の背景
タコ足細胞は、腎臓の糸球体を覆うユニークな形をした細胞ですが(図1走査型電子顕微鏡写真)、その役割は、大量の糸球体濾過を可能にすることです。糸球体濾過が大量に行われることによって、初めて腎臓は機能することができます。タコ足細胞の形は糸球体濾過の増大に合わせて進化を遂げてきました。核を中心にして数本の突起をのばし、その突起は枝分かれを繰り返し、最終的には足突起と呼ばれる細かい突起になります(図1丸印)。糸球体濾過液は、足突起と足突起の間の細胞間結合部を通って出てきます。数多くの足突起があり、その突起の間に非常に長い細胞間結合部が形成されて、大量の糸球体濾過が可能となります。
タコ足細胞が糸球体濾過を最終的に調節する細胞であることに加え、神経細胞のように細胞分裂を行わず、その傷害が不可逆的糸球体病変の原因になることから、多くの研究者の関心を惹き、さまざまなアプローチから研究が行われてきました。培養もその一つです。糸球体を単離する手技が確立するとすぐにタコ足細胞培養の試みが1970年代から始まり、非常に多くの論文が出されました。しかし、タコ足細胞の特徴的な形は、培養直後から急速に失われ、その再現は今日まで成功していませんでした。例えるならば、神経突起がない培養細胞を神経培養細胞として研究に用いてきたような状態が続いていました。

 
Ⅱ.研究の概要と成果
単離した糸球体からタコ足細胞を確実に培養できる方法を確立し、過去の論文を参考に特異的遺伝子の発現を増加させる条件を検討しました。また、突起形成は細胞密度の高い条件で起きにくいとされてきましたが、敢えて生体内に近い細胞密度の高い状態で細胞突起ができる条件を探しました。その結果、ヘパリンが単独で特異的遺伝子の発現を著明に亢進させること、ビタミンA誘導体(ATRA)と細胞外基質のラミニンが細胞の運動性と突起形成を促進することを見つけました。これらを組み合わせたところ、突起を盛んに出す状態を作り出すことができました(図2位相差顕微鏡写真、図3走査型電子顕微鏡写真)。従来の方法で培養した場合(図2A、図3A)と比べると、本研究で確立した培養(図2B、図3B)では、枝分かれする突起が四方に伸びだしていることが分かります。
透過型電子顕微鏡(図4)で培養細胞の垂直断面を観察すると、タコ足細胞でよくみられる、細胞の下への二重三重の突起の侵入、終末突起の間の隙間、それを橋渡しする細胞間結合装置(スリット膜)の構造物(矢頭)が認められました。

さらに、細胞間結合部を示すポドシンの分布(図5)をみると、従来の培養(図5A)では単純な形をした細胞境界ですが、この培養(図5B)ではくねくねと曲がった迷路状になり、細胞間結合部が著明に増えていることが分かりました。
タコ足細胞特異的遺伝子、タンパク質も増加し、単離糸球体での量に匹敵するまでになっていました。
上記のことは、生体内のタコ足細胞に近い状態を再現できたことを示しています。また、同時にタコ足細胞が、ラミニン、コラゲン、ファイブロネクチンなどの細胞外基質の違いを認識し違った挙動をとること、細胞密度が低くなると分化した形質を示さなくなること、突起をのばした細胞は細胞分裂のマーカーを失うことも分かってきました。

 
Ⅲ.今後の展開
タコ足細胞には、多くの謎が残されています。糸球体濾過を最終的に決めている細胞間結合部の長さ広がりはどのように調節されているのかをはじめ、核分裂は起きても細胞分裂が起きないのはなぜか、様々な受容体が見つかっていますがその機能がわかっていません。本研究の成果は、こうした疑問に答えるための新たな手段を与えるものです。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成29年9月7日のKidney International誌(IMPACT FACTOR 8.395)に掲載されました。
論文タイトル:Induction of interdigitating cell processes in podocyte culture.
著者:Yaoita E, Yoshida Y, Nameta M, Takimoto H, Fujinaka H.
doi: 10.1016/j.kint.2017.06.031.
http://dx.doi.org/10.1016/
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
腎研究センター腎構造病理学分野
准教授 矢尾板永信
E-mail:eyaoita@med.niigata-u.ac.jp

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