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2017/12/22 研究成果
米(胚乳)タンパク質が透析患者さんの有効な補給タンパク質になることを明らかにしました −透析患者さんにおける低栄養の問題に光明−

本学大学院医歯学総合研究科の斎藤亮彦特任教授らの研究グループは、透析患者における低栄養が死亡率を増加させることなどについて、米(胚乳)タンパク質が有効で安全な補給タンパク質になることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・透析患者さんにおける低栄養がその死亡率を増加させるなど、大きな問題となっている。
・一方で、タンパク質摂取量を増やすとリンの摂取量も増加し、動脈硬化・骨病変を引き起こすため、栄養学的なジレンマがある。
・米由来のタンパク質は日本人が最も多く摂取している植物性タンパク質であるが、米(胚乳)タンパク質はリンやカリウムの含有量が少ないことが明らかになっている。
・本試験により、米(胚乳)タンパク質は透析患者さんにおける有効で安全な補給タンパク質になることが示された。
・今後、長期試験による栄養・代謝改善効果をさらに検討し、米(胚乳)タンパク質の実用化を目指している。
 
Ⅰ.研究の背景
慢性腎臓病(CKD)の患者さんの数は本邦において約1,330万人に達するとされています。そのうち約32万人が透析療法を行っていますが、その数は年々増加しています。透析患者さんは生活の質(QOL)が低下し、心血管病の合併率や死亡率が増加することが報告されています。保存期CKD患者さんではタンパク質摂取制限が推奨されていますが(たとえばCKDステージG5では0.6-0.8g/kg体重/日)、透析導入後はむしろタンパク異化傾向にあるため、維持血液透析患者さんでは1.0-1.2g/kg体重/日の摂取が推奨されています。しかし、多くの維持血液透析患者さんでタンパク質摂取量(指標:nPCR)の推奨量が満たされておらず、栄養障害をきたしており、それが前述の心血管病の合併率や死亡率の増加につながっていると考えられています(図1)。
一方で、維持血液透析患者さんで蓄積をきたさない1日経口リン摂取量は、標準体重50kgあたり約600mgとされていますが、これはタンパク質摂取量を減らさなければ実際上は達成困難であり、タンパク質摂取に伴って増大するリンの摂取が、動脈硬化・骨病変を引き起こす原因として大きな問題となっています(図2)。さらに過剰なカリウム摂取は透析患者さんの不整脈の原因にもなり、注意が必要です。そこで、リン・カリウム含有量の少ないタンパク質源を開発することは、維持血液透析患者にとって重要な栄養学的課題となっています。
米由来のタンパク質は日本人が最も多く摂取している植物性タンパク質ですが、これまでにその機能性に関する検討はほとんど行われてきませんでした。新潟大学医歯学総合研究科腎研究センター機能分子医学講座の斎藤亮彦特任教授を中心とする研究グループは、亀田製菓株式会社、新潟大学農学部、新潟県立大学との共同研究において、精製された米(胚乳)タンパク質のリン・カリウム含有量が、大豆タンパク質、カゼインタンパク質に比較して、極めて少ないことを見出しました(図3)。
そこで今回、全身状態が安定しているが、タンパク質摂取量が推奨量を満たさず、低栄養傾向のある成人の維持血液透析患者さんにおいて、米(胚乳)タンパク質の摂取の有効性について前向きに調査を行うこととしました。

 
Ⅱ.研究の概要
新潟大学医歯学総合研究科 腎研究センター 機能分子医学講座の斎藤亮彦特任教授を中心とする研究グループは信楽園病院との共同研究にて、上記の成人の維持血液透析患者さんを対象に(50名)、12週間のクロスオーバー比較試験を行いました(図4)。対象となった患者さんには4週間、介入食(米タンパク質5 g含有試験食あるいは非含有対照食)を摂取後、4週間のウォッシュアウト期間を経て、再び4週間、介入食を入れ替えて摂取して頂きました。 介入食は、食味を調整するためフレーバーをつけたゼリー(レトルト式)であり、亀田製菓株式会社で作製され、カドミウム含有量の低減化と無菌性などの安全性を確認後、2週間毎に患者さんに配布し、冷蔵あるいは室温保存して、1日1食ずつ摂取して頂きました。

 
Ⅲ.研究の成果
50名中49名の患者さんが試験を完遂しました。本試験の主要評価項目であるnPCR(実際のタンパク質摂取量を表す指標)は、米タンパク質含有試験食摂取期間の前後比較において、有意な増加を認めました。一方で、非含有対照試験食摂取期間の前後比較においては増加を認めませんでした。さらに、それぞれの試験期間のΔnPCR(タンパク質摂取の変化量)の比較においても、米タンパク質含有試験食摂取期間の方が非含有対照試験食摂取期間より有意に増加が認められ、この増加がプラセボ効果とは独立したものであることが確認されました(図5)。血清リンおよびカリウム値については、各試験期間の前後比較で有意な変化を認めませんでした(図6、7)。試験期間中に米タンパク質含有試験食もしくは非含有対照試験食によると考えられる明らかな有害事象は認めませんでした。
以上より、米(胚乳)タンパク質は透析患者さんにおける有効で安全な補給タンパク質になることが示されました。

 
Ⅳ.今後の展開
今後、長期試験による栄養・代謝改善効果をさらに検討し、実用化を目指していきます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、Nature Publishing Groupが発行するScientific Reports誌(インパクトファクター: 4.847)のオンライン版に2017年12月21日19時(日本時間)に掲載されました。
 
論文タイトル:A Randomized, Double-Blind, Crossover Pilot Trial of Rice Endosperm Protein Supplementation in Maintenance Hemodialysis Patients
著者:Michihiro Hosojima, Hisaki Shimada, Yoshitsugu Obi, Shoji Kuwahara, Ryohei Kaseda, Hideyuki Kabasawa, Hazuki Kondo, Mikio Fujii, Reiko Watanabe, Yoshiki Suzuki, Motoni Kadowaki, Shigeru Miyazaki, Akihiko Saito
 
doi: https://doi.org/10.1038/s41598-017-18340-8
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
腎研究センター 機能分子医学講座
斎藤亮彦 特任教授
E-mail:akisaito@med.niigata-u.ac.jp

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