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2018/04/23 研究成果
鰹だしが抗がん剤の副作用予防に有効であることを明らかにしました −分子標的薬による手足症候群の予防、症状軽減に日本古来の食品が有効であることを証明−

新潟大学大学院医歯学総合研究科の上村顕也 講師、寺井崇二 教授らは、肝臓がんの治療に使用される抗がん剤の副作用である手足症候群(注1)に対して、日本古来の食品である鰹だしが有効であることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・肝臓がん治療に使用される分子標的薬(注2)は、より長く内服を継続することが大事です。その副作用の中で、手足症候群は非常に発症頻度が高く、生活にも影響を与えるため、内服中止の原因となっています。
・これまで、手足症候群の発症メカニズムは解明されておらず、その予防・軽減効果を有する有効な方法は確立されていませんでした。
・私達の研究で、手足症候群は、抗がん剤によって血管が障害された結果、血流が悪くなって起きる副作用であることを解明しました。
・また、日本古来の食品で、血管拡張効果があることが知られている鰹だしが血管を拡張し、末梢の血流を維持することで、手足症候群の発症予防に有効であることを示しました。
・血管が蛍光で光り、生きた状態で体外から血管の状態を観察できるメダカを用いて、手足症候群の状況を再現するモデルを作ることに成功しました。
・この実験系を使って、鰹だしの有効成分を探したところ、ヒスチジンというアミノ酸が少なくともその一つである可能性が示されました。
 
Ⅰ.研究の背景
進行肝癌に対する分子標的薬であるソラフェニブは、より長く内服を継続することで進行肝細胞癌患者の生命予後延長を期待できることが報告されています。一方で、副作用の制御は最重要課題で、中でも手足症候群は、ソラフェニブを内服する患者さんでは約半数の方に発症することが知られ、内服中断によって予後や生活の質に影響を与えることから対策の確立が急務です。
これまでの検討で、手足症候群発症には、手足の血流が低下することが関与することが示されました。一方で、日本古来の食品である鰹だしには、血管拡張効果があることが報告されております。
そこで、本研究では鰹だしを摂取していただく事により、ソラフェニブ内服中の手足症候群の発症制御、症状軽減効果が得られるか、検討しました。
さらに、鰹だしの成分である、ヒスチジンという血管拡張作用のあるアミノ酸が、ソラフェニブの血管障害を制御するか、血管が蛍光で光るメダカ動物モデルを用いて検証しました。
 
Ⅱ.研究の概要
ソラフェニブを内服するために入院された患者様に、鰹だしを飲用していただき、末梢血流量の変化、手足症候群の発症について経過観察する臨床研究を遂行しました。手足症候群の発症について年齢、性別、肝硬変の有無、病期、投与量、抗腫瘍効果、内服期間、末梢血流量の増減、鰹だしの飲用の有無、の各因子別に検討しました。
メダカモデルを用いた、ヒスチジンの効果の検証では、血管壁がGFPという緑色の蛍光蛋白で光り、血管を可視化できるメダカを対象として、その尾ひれの血管で手足症候群の状況を再現しました。そのメダカをソラフェニブ及びヒスチジンを含有した水槽で飼育し、血管変化を経時的に測定し、ソラフェニブによる血管障害メカニズムとヒスチジンによる予防効果を検討しました。
 
Ⅲ.研究の成果
手足症候群を発症される患者様では、エコー検査で、手足の温度、眼底血流などが低下することが明らかとなりました。一方で、鰹だしを飲用いただいた患者さんでは、血流低下がおこりにくく手足症候群の発症が明らかに少ない結果を得ました(図1)。これらの結果は、日本古来の食品である鰹だしの血管拡張効果によって、手足症候群の発症が抑えられたことを示唆しています。
さらに、メダカを用いた、鰹だしの成分であるヒスチジンの効果の検証でも、メダカ尾ひれの血管が拡張し、ソラフェニブによる血管障害を軽減していることが示唆されました(図2)。

Ⅳ.今後の展開
本研究では、ソラフェニブによる手足症候群が血流低下によって生じること、鰹だしという日本古来の食品の血管拡張作用によって、その発症が制御できることを明らかにしました。さらにヒスチジンがその有効成分のひとつであることが示唆されました。
今後は、本研究成果に基づいた手足症候群の発症予防を推進するとともに、ヒスチジンのサプリメントによる予防を含めた新たな治療法の開発に役立つと考えます。
今回の成果により、血管が蛍光で光るメダカが、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)に登録され、容易に入手できるようになりました。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年4月17日(日本時間)のCancer Management and Research誌(IMPACT FACTOR 3.851)及び平成30年1月10日(日本時間)のBiochemical and Biophysical Research Communications誌(IMPACT FACTOR 2.466)に掲載されました。
論文タイトル:Effective Prevention of Sorafenib-induced Hand-Foot Syndrome by Dried Bonito Broth
著者:Kenya Kamimura, Yoko Shinagawa, Ryo Goto, Kohei Ogawa, Takeshi Yokoo, Akira Sakamaki, Satoshi Abe, Hiroteru Kamimura, Takeshi Suda, Hiroshi Baba, Takayuki Tanaka, Yoshizu Nozawa, Naoto Koyama, Masaaki Takamura, Hirokazu Kawai, Satoshi Yamagiwa, Yutaka Aoyagi,Shuji Terai.
Cancer Management and Research In Press
論文タイトル:Effect of histidine on sorafenib-induced vascular damage: Analysis using novel medaka fish model.
著者:Yoko Shinagawa-Kobayashi Y, Kenya Kamimura, Ryo Goto, Kohei Ogawa, Ryosuke Inoue, Takeshi Yokoo, Norihiro Sakai, Takuro Nagoya, Akira Sakamaki, Satoshi Abe, Soichi Sugitani, Masahiko Yanagi, Koichi Fujisawa, Yoshizu Nozawa, Naoto Koyama, Hiroshi Nishina, Makoto Furutani-Seiki, Isao Sakaida, Shuji Terai.
Biochem Biophys Res Commun. 496: 556-561.
doi: 10.1016/j.bbrc.2018.01.057 PMID: 29331379.
 
<用語解説>
(注1)手足症候群
種々の抗悪性腫瘍薬の副作用として手や足の皮膚が障害される症状です。手のひらや足の裏が赤くなったり、みずぶくれになったりするため、生活に支障をきたすこともあります。
(注2)分子標的薬
様々な疾患において、治療の標的となる特定の分子の機能を制御することによって治療効果を得るための薬です。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野
教授 寺井崇二
E-mail:terais@med.niigata-u.ac.jp
講師 上村顕也
E-mail:kenya-k@med.niigata-u.ac.jp

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