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2018/06/20 研究成果
ミトコンドリアオートファジーを抑制する新しい制御因子を発見

新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野の古川健太郎特任助教、神吉智丈教授らの研究グループは、東京工業大学生命理工学院の中戸川仁准教授らとの共同研究により、タンパク質脱リン酸化酵素Ppg1が、ミトコンドリアオートファジー(注1)(以下、マイトファジー)を抑制する制御因子として機能していることを発見しました。マイトファジーは、傷害を受けたあるいは余剰に存在するミトコンドリアを分解することで、ミトコンドリアの恒常性を維持する重要な細胞品質管理機構です。本研究は、マイトファジー制御機構の全容解明へ新たな道を拓き、老化やミトコンドリア機能低下が関わる様々な疾患の予防・治療の糸口となる成果です。
 
【本研究成果のポイント】
・マイトファジーレセプターAtg32の脱リン酸化を介してマイトファジーを抑制する脱リン酸化酵素Ppg1を同定した。
・Ppg1またはFar複合体(Ppg1の結合因子として同定)の欠損は、Atg32の恒常的なリン酸化およびマイトファジーの亢進を引き起こした。
・Atg32の151-200の細胞質領域がマイトファジーの抑制に重要であることが明らかとなった。
・タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素(注2)の競合によるマイトファジーの新たな制御機構モデルを提唱した。
 
Ⅰ.研究の背景
ミトコンドリアは、細胞が必要とするエネルギーの大半を産生する細胞内小器官で、生命活動を行う上で非常に重要な役割を果たしています。エネルギー産生の過程で傷ついたミトコンドリアは細胞にとって有害であり、ミトコンドリアのみを標的とするオートファジー(以下、マイトファジー)によって除去される必要があります。マイトファジーの機能が破綻し、細胞内に不良ミトコンドリアが蓄積すると、神経変性疾患(注3)や老化現象などの要因となります。マイトファジーは、ミトコンドリア関連疾患治療の糸口として注目されており、酵母からヒトまで多岐に渡るマイトファジーの分子機構と生理的意義の全容解明は急務となっています。
本研究室では、酵母をマイトファジーのモデル生物として用いて、マイトファジーのレセプター(注4)として機能するAtg32の同定(Kankiら、Dev Cell、2009)を皮切りに、マイトファジーの分子機構の大部分を明らかにしてきました。2013年に、Atg32がカゼインキナーゼ2(以下、CK2)という酵素によってリン酸化されることがマイトファジーの引き金となることを発表しました(Kankiら、EMBO Rep)。しかしながら、CK2は常に活性を持った状態で細胞内に大量に存在するにもかかわらず、Atg32のリン酸化はマイトファジー誘導時のみ起こる現象であることから、通常条件下ではどのようにリン酸化が抑制されているのかは不明のままでした。
 
Ⅱ.研究の概要と成果
Atg32のリン酸化を抑制する因子を探索する方法として、マイトファジーが誘導されると、Atg32がリン酸化依存的にミトコンドリア上にドット状に集積する現象に着目しました。マイトファジーを誘導せずにこのような特徴を示す変異株を探索したところ、脱リン酸化酵素Ppg1が同定されました。Ppg1を欠損させると、CK2依存的にAtg32の恒常的なリン酸化が起こり、その結果としてマイトファジーの亢進が見られました。興味深いことに、Atg32のリン酸化だけではマイトファジーは進行せず、オートファジーのコアとなる部分も同時に活性化されることが重要であることが分かりました。また、マイトファジー以外のオートファジー、例えばペルオキシソームという細胞内小器官を分解するペキソファジーやそのレセプターであるAtg36の制御にはPpg1は関与しないことも分かりました。
Ppg1が属するPP2Aファミリーの脱リン酸化酵素(注5)は、活性調節因子と結合して機能を発揮することが知られています。しかしながら、Atg32の脱リン酸化にはPpg1は既知の活性調節因子を必要としなかったことから、未知の因子が関与すると推測しました。そこで、Ppg1と結合する因子をプロテオーム解析(注6)という手法で探索したところ、Far複合体(Far3、7、8、9、10、11の6タンパク質から成る)が同定されました。Far複合体を欠損させると、Ppg1欠損と同様にAtg32の恒常的なリン酸化とマイトファジーの亢進が見られました。
最後に、マイトファジーの抑制にAtg32タンパク質のどの領域が重要なのかを調べました。Atg32のアミノ酸配列151-200番目の領域を欠損させると、Ppg1欠損とほぼ同様の結果となったことから、Ppg1はこの領域を介してAtg32を脱リン酸化していると推測されました。以上の結果をもとに、図1に示されたマイトファジーの制御機構を提唱しました。
 

図1 マイトファジーの制御機構モデル
…名鐓魴鏖爾任Ppg1-Far複合体の作用によってAtg32のリン酸化は抑制されている。▲泪ぅ肇侫.検爾陵尭馨魴鏖爾任蓮Ppg1-Far複合体よりもCK2が優位に働き、Atg32のリン酸化が起こる。Atg32のリン酸化およびアダプタータンパク質Atg11依存的にAtg32はミトコンドリア上に集積する。ぅートファジーのコア因子依存的にマイトファジーが進行する。
 
≪用語説明≫
(注1)オートファジー
細胞質成分をオートファゴソームと呼ばれる二重膜で包み込み、液胞あるいはリソソームで分解し、栄養源の再利用や傷ついた細胞小器官(ミトコンドリア、ペルオキシソーム、小胞体など)を排除する酵母からヒトまで備わる重要な生理機能である。オートファジーには、細胞質成分を非選択的に丸ごと分解するバルクオートファジー、細胞小器官や特定の酵素のみを選択的に分解する選択的オートファジーに大きく分類される。本研究では、ミトコンドリアを選択的に分解するマイトファジーに焦点を当てている。
 
(注2)タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素
多くのタンパク質は、特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)がタンパク質リン酸化酵素によってリン酸化という修飾を受けることによって、その立体構造が変化し、活性の上昇や低下あるいは他のタンパク質との結合や解離などが起こる。リン酸化されたタンパク質は、脱リン酸化酵素によって脱リン酸化される。
 
(注3)神経変性疾患
神経の変性や神経細胞死を伴う病気の総称であり、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などが知られている。近年、パーキンソン病はマイトファジーの異常が原因の一つだと考えられている。
 
(注4)マイトファジーのレセプター
ミトコンドリア上に存在するマイトファジーの目印となるタンパク質。酵母ではAtg32が知られているが、ヒトではPINK1/Parkin依存的なマイトファジーとPINK1/Parkin非依存的なマイトファジーレセプター(Nix、BNIP3、FKBP8、FUNDC1、Bcl2-L-13など)が存在する。
 
(注5)PP2Aファミリーの脱リン酸化酵素
酵母では、Pph21、Pph22、Pph3、Sit4、Ppg1が知られている。Pph21とPph22は、Tpd3、Cdc55、Rts1と結合し、Sit4はSap4、Sap155、Sap185、Sap190と結合することで脱リン酸化酵素としての機能を発揮する。本研究では、Ppg1はFar複合体と協調的に働くことが推測された。
 
(注6)プロテオーム解析
細胞内外のタンパク質を網羅的に解析する方法。本研究では、質量分析装置を用いてPpg1と結合するタンパク質群を同定した。
 
Ⅲ.今後の展開
マイトファジーの誘導条件下において、Ppg1とFar複合体は未解明のシグナルによって不活性化され、Atg32を脱リン酸化することができなくなり、結果的にAtg32はCK2によるリン酸化を受けると推測されます。今後は、このシグナルの正体と詳細な分子機構を明らかにすることでマイトファジーの制御機構の全容解明を目指します。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、新潟大学研究推進機構の吉田豊特任専門職員、東京工業大学生命理工学院の中戸川仁准教授との共同研究で得られたもので、平成30年6月20日午前1時(日本時間)のCell Reports誌(IMPACT FACTOR 8.282)に掲載されました。

論文タイトル:The PP2A-like protein phosphatase Ppg1 and the Far complex cooperatively counteract CK2-mediated phosphorylation of Atg32 to inhibit mitophagy
 
著者:Kentaro Furukawa¹,*, Tomoyuki Fukuda¹, Shun-ichi Yamashita¹, Tetsu Saigusa¹, Yusuke Kurihara¹,⁵, Yutaka Yoshida²,³, Hiromi Kirisako⁴, Hitoshi Nakatogawa⁴, and Tomotake Kanki¹,*
 
1)Department of Cellular Physiology, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata 951-8510, Japan
2)Department of Structural Pathology, Kidney Research Center, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata 951-8510, Japan
3)Institute for Research Promotion, Niigata University, Niigata 950-2181, Japan
4)School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, Yokohama 226-8501, Japan
5)Present address: Department of Microbiology and Immunology, Faculty of Medicine, Fukuoka University, Fukuoka 814-0180, Japan
*)Corresponding authors
 
doi: 10.1016/j.celrep.2018.05.064
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 機能制御学分野
神吉智丈(かんきともたけ) 教授
E-mail:kanki@med.niigata-u.ac.jp

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