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2018/07/30 研究成果
簡便な体力テストによる2型糖尿病のリスク評価 −握力や片足バランスの成績が悪いと2型糖尿病リスクは高くなる−

新潟大学大学院医歯学総合研究科の曽根博仁(そね ひろひと)教授および同研究科 生活習慣病予防検査医学講座(新潟県労働衛生医学協会による寄附講座)の加藤公則(かとう きみのり)特任教授らのグループは、東北大学および国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の共同研究グループとともに、新潟ウェルネススタディの一環として、新潟県労働衛生医学協会の健診データをもとに、 20〜92歳の成人を対象とした追跡研究を行い、握力テストおよび閉眼片足立ちテストの成績が2型糖尿病の発症リスクと関連することを明らかにしました。本研究は、筋力やバランス能力を評価することで、従来の全身持久力による評価より比較的簡便に2型糖尿病の高リスク者を把握できる可能性を示しており、2型糖尿病の予防を目的とした体力測定の重要性を示す重要な報告です。この成果は、平成30年7月28日に、Journal of Epidemiology(電子版)に掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・糖尿病ではない20歳から92歳の成人21,802人を6年間追跡し、体力テスト(握力、垂直跳び、閉眼片足立ち、立位体前屈、全身反応時間、仰臥位足上げ)の成績と2型糖尿病の発症リスクの関連を検討した。
・体重当たりの握力の成績が悪ければ悪いほど、2型糖尿病の発症リスクは高かった。
・閉眼片足立ちの成績が良い群と比較して、成績が悪かった群の2型糖尿病の発症リスクは高い値を示した。
 
Ⅰ.研究の背景
血糖値を下げるホルモン(インスリン)の効きが悪くなる2型糖尿病を予防するためには、日頃の活動量やランニング等の運動を行うことが有効であるとされています。運動によって体力が向上することはよく知られており、運動を長時間続けるために必要な全身持久力が高いことは2型糖尿病の予防に役立つという結果があります。それでは、全身持久力以外の体力はどうでしょうか?全身持久力以外の体力としては、筋力やパワー、筋持久力、柔軟性、バランス能力、反応速度などがあり、どれも継続的な運動によって向上させることができます。これらの体力が高ければ、2型糖尿病にならずに済むのでしょうか?(図1)

Ⅱ.研究の概要及び成果
今回の研究では、新潟県労働衛生医学協会の協力のもと、体力測定を行った糖尿病ではない健診受診者21,802人(20〜92歳)について、体力項目毎に成績順にそれぞれ4グループに分けて、最大6年間追跡しました。その結果、筋力を測定する握力(図2)およびバランス能力を測定する閉眼片足立ちテスト(図3)の成績が2型糖尿病のリスクに関連することが明らかになりました。例えば、握力の値が体重の8割ぐらいのグループ(例:体重60kgの人で握力の成績が48kgの人)と比較すると、半分ぐらいのグループ(体重60kgの人で握力の成績が30kgの人)の2型糖尿病リスクは56%高い値を示しました。このほか、下半身のパワーを測定する垂直跳びや柔軟性を評価する立位前屈の成績も2型糖尿病のリスクに関連することが明らかになりましたが、この関連は肥満の指標であるbody mass index(体重/身長2,kg/m2)を考慮すると認められなくなりました。したがって、筋力やバランス能力とは異なって、2型糖尿病リスクに対するパワーや柔軟性は、一部、肥満が影響していたことを示す結果となりました。その他の全身反応時間や筋持久力については、2型糖尿病のリスクと関連は認められませんでした。

Ⅲ.今後の展開
今回の研究では、筋力やバランス能力を評価することで、従来の全身持久力による評価より比較的簡便に2型糖尿病の高リスク者を把握できる可能性が示されました。本研究は6年間の追跡調査だったため、比較的近い将来の2型糖尿病リスクとの関連を明らかにしたと言えます。今後は、長きに渡って筋力やバランス能力が2型糖尿病のリスクと関連するか明らかにするため、長期的な追跡調査を実施する必要があります。また、なぜ、筋力やバランス能力が高ければ2型糖尿病のリスクが低くなるのか、その詳細なメカニズムの解明も望まれます。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年7月28日のJournal of Epidemiology誌(IMPACT FACTOR 2.447)の電子版に掲載されました。
論文タイトル:Physical fitness tests and type 2 diabetes among Japanese: a longitudinal study from the Niigata Wellness Study(体力テストと2型糖尿病:新潟ウェルネススタディによる縦断研究)
著者:門間陽樹(東北大学大学院 医工学研究科、新潟大学大学院 医歯学総合研究科、医薬基盤・健康・栄養研究所)、澤田亨(医薬基盤・健康・栄養研究所)、加藤公則(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 生活習慣病予防検査医学講座)、丸藤祐子(医薬基盤・健康・栄養研究所)、川上諒子(早稲田大学)、宮地元彦(医薬基盤・健康・栄養研究所)、黄聡(浙江大学)、永富良一(東北大学大学院 医工学研究科)、田代稔(新潟県労働衛生医学協会)、石澤正博(新潟大学大学院 医歯学総合研究科)、児玉暁(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 生活習慣病予防検査医学講座)、岩永みどり(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 生活習慣病予防検査医学講座)、藤原和哉(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 健康寿命延伸・生活習慣病予防治療医学講座)、曽根博仁(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科学分野)
 
doi: https://doi.org/10.2188/jea.JE20170280
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
血液・内分泌・代謝内科学分野
教授 曽根博仁
E-mail:sone@med.niigata-u.ac.jp
生活習慣病予防検査医学講座
特任教授 加藤公則
E-mail:kkato48@med.niigata-u.ac.jp

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