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2018/10/10 研究成果
日本人女性に対する子宮頸がんワクチンの有効性 −HPVウイルスの感染予防効果を実証−

新潟大学医歯学総合研究科榎本隆之教授、関根正幸准教授、工藤梨沙特任助教らの研究グループは、日本人女性において、子宮頸がんワクチン(2価ワクチン)のヒトパピローマウイルス(HPV)(注1)16/18型感染予防に対する有効率(注2)は90%以上と高い数字を示し、特に、初交前に同ワクチンを接種するとその効果がさらに高くなり、HPV16/18型だけでなくHPV31/45/52型に対しても感染予防効果を示すことを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・20-22歳の日本人女性2073人を対象に、子宮頸がんワクチン接種の有無とHPV感染状況を調査した。
・子宮頸がんワクチン(2価ワクチン)のHPV16/18型感染予防に対する有効率は91.9%と高い数字を示した。
・特に初交前にワクチンを接種した群では、その有効率は93.9%と上昇し、HPV31/45/52型に対しても感染予防効果を認めた(有効率67.7%)。
 
Ⅰ.研究の背景
日本では子宮頸がんによって毎年約2,700人が死亡しています。子宮頸がん予防ワクチンであるHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン(注3)は、子宮頸がんの60%〜70%の原因となるHPV16/18型の感染を予防するワクチンで、日本では2009年に認可されました。2010年には自治体ごとの公費接種助成が開始となり、2013年4月には国が定める定期接種ワクチン(対象:12-16歳女子、3回接種)の一つとなりました。しかし、2013年の6月以降は厚生労働省による積極的勧奨が中止され、ワクチン接種者がほぼゼロの状況が続いています。国外では、HPVワクチンのHPV16/18型感染予防に対する高い有効性と、その他の高リスク型HPVに対する交叉防御効果(注4)が報告されていますが、日本国内では大規模な研究によるHPV感染予防効果はこれまでに報告されていませんでした。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究は新潟県内の主要都市において自治体の子宮頸がん検診受診者を対象とし、文書による同意を得て行われました。研究は2014年度に開始され、HPVワクチンの公費接種世代を中心とした20代前半を対象に現在も継続していますが、今回は中間解析として2014-2016年度の3年間における20-22歳のHPV感染率について解析を行いました。この世代は、HPVワクチンの積極的勧奨が中止される以前の公費接種対象学年を含むため、ワクチン接種率が高いと予測される世代であり、ワクチン接種歴は自治体の接種記録からワクチンの種類、接種日、接種回数を確認し、ワクチン接種群と非接種群の割り付けを行いました。さらに、HPVは性交渉により感染するため、初交前に接種すること(HPVに感染する前に接種すること)が推奨されており、本研究では登録者の性的活動性(初回性交年齢、性交経験人数)もアンケート調査し、これらの因子を加えて正確なワクチン有効性を算出しました。
 
Ⅲ.研究の成果
本研究の登録者は、HPV2価ワクチン接種者1355人(74.6%)、非接種者459人(25.4%)で、ワクチン接種者のうち1295人(95.5%)は3回接種を完了していました。ワクチン接種者のHPV16/18型の感染率は0.2%であったのに対し、非接種者の感染率は2.2%で、ワクチンの有効率は91.9%と高い感染予防効果を認めました(図1)

特に、初交前にワクチンを接種した群では、HPV16/18型に対する感染予防効果の有効率は93.9%とさらに上昇し、HPV31/45/52型に対しても感染予防効果(有効率67.7%)を認めました(図2)。

HPV2価ワクチンの直接の標的であるHPV16/18型にHPV31/45/52型に対する交叉防御効果を加えると、日本人子宮頸がんの80%以上をカバーできる可能性があります。
 
Ⅳ.今後の展開
HPV2価ワクチンは日本人女性においても高いHPV感染予防効果を認めました。今回はHPV感染に対するワクチンの予防効果を中間解析として検証しましたが、本研究は現在も継続しており、子宮頸部の細胞診異常や前がん病変に対する予防効果についても引き続き検証を行う予定です。さらに、2020年にはHPVワクチンの接種率が激減した世代が子宮頸がん検診の対象年齢となるため、この世代のHPV感染率と前がん病変発生率がどのように変化しているのかが注目されます。HPVワクチンが誕生してから約10年が経過し、国外では既にHPVワクチン接種による子宮頸がん(浸潤癌)発生率の減少効果が報告され始めてきている一方で、日本ではHPVワクチン接種が事実上の停止状態になってから既に5年が経過しています。この間に我々日本人が失った、ワクチンによる一次予防の恩恵について今一度見つめ直す必要があるかもしれません。
 
(用語解説)
(注1)HPV(ヒトパピローマウイルス):パピローマウイルス科に属するウイルスで、200種以上のタイプが同定されている。ウイルスの発がんに関与する能力により高リスク型と低リスク型に分類されている。高リスク型HPVは子宮頸がんの他に肛門がん、口腔咽頭がん、外陰がん、膣がん及び陰茎がんの原因となる。代表的な高リスク型にはHPV16/18/31/33/35/39/45/51/52/56/58/59/68型があり、中でもHPV16/18型で全世界の子宮頸がんの約70%を占めている。また、低リスク型に分類されるHPV6/11型は尖圭コンジローマ(肛門性器疣贅)の原因となる。
(注2)ワクチン有効率:ワクチンを接種しなかったら罹患していたはずの人が、ワクチンを接種したことで罹患を予防できた確率。
(注3)HPVワクチン:現在日本ではHPV2価ワクチン(2009年10月承認)とHPV4価ワクチン(2011年6月承認)が認可されている。両者共に高リスク型のHPV16/18型を標的としており、4価ワクチンはそれに加えて低リスク型のHPV6/11型も標的としている(※本研究では4価ワクチンの接種者がわずか24名であったため解析から除外した)。さらに、国外では既に高リスク型のHPV16/18/31/33/45/52/58型と低リスク型のHPV6/11型を標的とするHPV9価ワクチンが導入されているが、日本ではまだ未承認である。
(注4)交叉防御効果:ワクチンが、標的としたウイルス株とは異なるウイルスにも感染予防効果を発揮すること。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年10月9日14時05分(日本時間)のThe Journal of Infectious Diseases誌(IMPACT FACTOR 5.186)に掲載されました。
論文タイトル:Bivalent HPV Vaccine Effectiveness in a Japanese Population: High Vaccine-type Specific Effectiveness and Evidence of Cross-Protection
著者:Risa Kudo*, Manako Yamaguchi*, Masayuki Sekine†, Sosuke Adachi, Yutaka Ueda, Etsuko Miyagi, Megumi Hara, Sharon J. B. Hanley and Takayuki Enomoto
*contributed equally †corresponding author
doi: 10.1093/infdis/jiy516
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学総合研究科 産科婦人科学分野
榎本隆之 教授
E-mail:enomoto@med.niigata-u.ac.jp
関根正幸 准教授
E-mail:masa@med.niigata-u.ac.jp

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