NEWS&TOPICS

2021/02/09 研究成果
細胞が栄養状態に応じてタンパク質の合成・分解を調節する仕組みを解明

新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野の福田智行准教授らと奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス領域の塩��一裕教授らとの共同研究グループは、細胞内の物質代謝を制御する「TOR複合体(1)」とよばれるタンパク質リン酸化複合体の活性が栄養状態に応じて調節される仕組みを明らかにしました。TOR複合体は細胞の老化やがんの増殖にも関与することが知られています。本研究結果は、細胞の栄養応答や代謝制御の理解に繋がる重要な成果といえます。
 
【本研究成果のポイント】
・TOR複合体の活性を調節するGATOR複合体の構成因子を同定した。
・アミノ酸などの栄養に応答してTOR複合体の活性が調節される仕組みを明らかにした。
・今回明らかにしたTOR複合体の活性調節は細胞の増殖や分化に重要な役割を果たすことが分かった。
 
Ⅰ.研究の背景
細胞は栄養、ストレス、成長因子、エネルギーといった様々な情報に応じて増殖や分化を制御しています。こうした制御において司令塔的な役割を果たすのが、TOR複合体とよばれるタンパク質複合体です。TOR複合体は、原始的な単細胞生物である酵母から高等なヒトや植物まで全ての真核生物に共通して存在する、生存に不可欠な因子です。栄養が豊富にあるとTOR複合体は活性化してタンパク質の合成を促進し、細胞を成長させます。一方、栄養飢餓時にはTOR複合体の活性が低下してタンパク質の合成が抑えられるとともに、オートファジー(2)が誘導されてタンパク質の分解が生じます。このように、TOR複合体は栄養状態に応じて活性が変動し、タンパク質の合成と分解をコントロールしています。TOR複合体は栄養を直接感知することはできません。そこで、栄養状態に関する情報がどのようにTOR複合体へと伝えられるのかに関して、ヒト細胞をはじめ様々な生物種を用いて研究が行われています。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究グループは分裂酵母(3)を研究材料に用い、TOR複合体の活性を調節する因子を探索しました。まず、ヒト細胞においてTOR複合体の活性を制御することが既に知られているGATOR複合体(4)が、分裂酵母にも存在することを見いだしました。ヒトと分裂酵母の間でGATOR複合体の構成は完全に一致していましたが、構成因子の機能に相違が見られました。次に、分裂酵母が栄養素のひとつであるアミノ酸の有無を認識してTOR複合体に情報を伝達する機構を解析しました。その結果、Gcn2(5)というタンパク質がアミノ酸の欠乏を感知し、転写因子の発現誘導を介して、TOR複合体の活性を抑えることが分かりました(図1)。一方、窒素源を栄養素として認識してTOR複合体に伝える場合には、Gcn2とGATOR複合体に加えて、TSC複合体(6)も含めた三つの因子が、それぞれ独立に作用していることが分かりました(図2)。さらに、これら三因子によるTOR複合体の活性調節が正常に行えない分裂酵母は、栄養が豊富にあっても増殖が遅く、栄養飢餓条件下で誘導される胞子形成の効率が低いといった生理機能の低下が見られました。

Ⅲ.研究の成果
分裂酵母の細胞では、栄養の種類に応じてGATOR複合体、Gcn2、TSC複合体の三因子がそれぞれ独立に作用してTOR複合体の活性を調節し、タンパク質の合成と分解を制御していることが明らかになりました。また、こうした制御が分裂酵母の増殖や分化のコントロールに重要な役割を果たしていることが分かりました。これらの三因子はいずれもヒト細胞にも存在していますが、分裂酵母とヒト細胞との間で栄養の認識や情報伝達の様式に差異も見られました。そのため、真核生物は共通した分子装置を用いながらも、各生物種の特性や環境に適した多様な方法でTOR複合体の活性を調節している可能性が示されました。
 
Ⅳ.今後の展開
TOR複合体は微生物からヒトまで様々な生物において細胞内の物質代謝をコントロールしています。また、TOR複合体はがんの増殖を促進するため、その阻害剤が抗癌剤として有効であることが知られています。したがって、TOR複合体の活性制御の理解がさらに深まり、活性を人為的に操作できるようになれば、微生物を用いた物質生産の向上や、がんの効果的な治療法につながると期待されます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2021年2月3日、eLife誌に掲載されました。
論文タイトル:Tripartite suppression of fission yeast TORC1 signaling by the GATOR1-Sea3 complex, the TSC complex, and Gcn2 kinase
著者:Tomoyuki Fukuda, Fajar Sofyantoro, Yen Teng Tai, Kim Hou Chia, Takato Matsuda, Takaaki Murase, Yuichi Morozumi, Hisashi Tatebe, Tomotake Kanki, Kazuhiro Shiozaki
doi:10.7554/eLife.60969.(https://elifesciences.org/articles/60969)
 
 
●用語の解説
(1) TOR複合体:真核生物に広く保存されたタンパク質リン酸化酵素複合体。TOR(Target of rapamycin)キナーゼを含む複数のタンパク質で構成されます。細胞内の様々なタンパク質をリン酸化することで、それらの機能を制御します。細胞の成長、増殖、代謝、老化、寿命など多くの生命現象に関与しています。
(2) オートファジー:細胞成分を球状の膜構造で包み込み、分解酵素によって低分子へと分解する反応。オートファジーによりタンパク質はアミノ酸に分解され、栄養として再利用されます。
(3) 分裂酵母:分裂により増殖する酵母。主に基礎研究に用いられており、細胞増殖をはじめとする多様な生命現象のメカニズムの解明に貢献しています。
(4) GATOR複合体:GATOR1とGATOR2の二つの部分複合体からなるタンパク質複合体。哺乳類細胞では主に細胞内のアミノ酸のシグナルをTOR複合体に伝えます。また、多種のがん細胞でGATOR複合体構成因子が欠損し、TOR複合体の活性を抑えられなくなっています。
(5) Gcn2:アミノ酸の欠乏を認識するタンパク質リン酸化酵素。タンパク質合成に関わる因子をリン酸化することで、タンパク質合成や転写因子の発現誘導を制御します。
(6) TSC複合体:TOR複合体の活性調節に関わるタンパク質複合体。結節性硬化症患者において構成因子に変異が見られます。哺乳類細胞では成長因子や細胞内エネルギーの情報をTOR複合体に伝えます。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野
准教授 福田智行(ふくだ ともゆき)
E-mail:tfukuda@med.niigata-u.ac.jp

最新の記事 ←新記事 一覧へ戻る 前記事→ 最初の記事