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2023/08/08 研究成果
Stevens-Johnson症候群・中毒性表皮壊死症の新しい予後予測スコアCRISTENを開発 − 既往歴・臨床所見だけで予後を予測できる −

新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の濱菜摘講師、阿部理一郎教授、環境予防医学分野の中村和利教授らの研究グループは、国内および海外の研究機関との共同研究で致死的重症薬疹である Stevens-Johnson 症候群/中毒性表皮壊死症(注1)に対する新たな予後予測スコア(CRISTEN)を開発しました。このスコアは発症時に既往歴と皮膚の所見のみで予後を予測できるもので、国際検証により血液検査が必要な既存のスコアと同等の精度が確認されました。今後、日本国内の利用だけでなく、血液検査が速やかに行えない国や地域での活用も期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症は未だ致死率の高い医原性疾患であり(それぞれ4%、30%)、重症度にあわせた早期治療が必須です。
・既存の予後予測スコアは20年以上前に作成されたものや、血液検査が必要であったり、心拍数のような不安定な検査項目で構成されており、臨床現場では使いにくいスコアでした。
・今回本研究グループは2018年に実施された日本国内の調査の結果をもとに、現在の医療水準に合致し、かつ既往歴や臨床所見のみで簡便に算出できる予後予測スコアを開発しました。さらに日本以外の7か国の機関で検証し、高い精度も確認しました。今後の国際的な臨床応用が期待されます。
 
Ⅰ.研究の背景
重症薬疹であるStevens-Johnson症候群(SJS)/中毒性表皮壊死症(TEN)は未だ致死率が高い予後不良の医原性疾患です。予後改善のためには発症早期に重症度による層別化を行い、治療方針を早期に決定することが望まれますが、これまで実臨床で利用しやすい予後予測スコアはありませんでした。そこで本研究グループは、厚労科研研究班による第2回SJS/TEN全国調査(Sunaga Y, Hama N, et al. J Dermatol Sci 2020)で得られたデータを基に初診時の臨床所見と既往歴により、簡便に死亡率が推定できる、新しい重症度・予後予測スコア、CRISTENを作成しました。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究グループは、国内(11施設)および海外の研究機関(8施設)との共同研究で、致死的重症薬疹であるStevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症に対する新たな予後予測スコア(CRISTEN)を開発しました。SJS/TEN症例の死亡リスク因子のうち寄与の大きい項目を抽出し、各スコアをそれぞれ1点としたところ、スコアが大きくなるほど予測死亡率が上昇しました。これらの10項目を構成要素とした予後予測スコアを本研究グループはCRISTEN(Clinical Risk Score for SJS/TEN)と名付けました。このスコアは発症時に既往歴と皮膚の所見のみで予後を予測できるもので、国際検証により血液検査が必要な既存のスコアと同等の精度が確認されました。
 
Ⅲ.研究の成果
本研究で分析した日本国内の調査データ382例におけるCRISTENでの予測精度はAUC(注2)0.876と高い水準であり、さらに海外の7か国(スイス、ドイツ、フランス、台湾、韓国、英国、カナダ)、416症例のデータによる検証でもAUC 0.827と有効性が確認されました。

Ⅳ.今後の展開
この新規予後予測スコアCRISTENは血液検査が不要であることから、一般のクリニックや、医療体制が整っていない開発途上国や地域でも簡便に使うことが可能です。CRISTENにより重症度を即時に予測することでSJS/TEN患者に適切な医療ケアを提供することができます。今後はこのスコアの普及に努め、さらにCRISTENによる重症度と連結したさらなる研究を進める予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2023年7月8日、科学誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice誌」(IMPACT FACTOR 9.4)のオンライン版に掲載されました。
論文タイトル:Development and Validation of a Novel Score to Predict Mortality in Stevens-Johnson Syndrome and Toxic Epidermal Necrolysis: CRISTEN
著者:Hama N*, Sunaga Y*, Ochiai H, Kokaze A, Watanabe H, Kurosawa M, Azukizawa H, Asada H, Watanabe Y, Yamaguchi Y, Aihara M, Mizukawa Y, Ohyama M, Hashizume H, Nakajima S, Nomura T, Kabashima K, Tohyama M, Hasegawa A, Takahashi H, Mieno H, Ueta M, Sotozono C, Niihara H, Morita E, Brüggen MC, Feingold IM, Jeschke MG, Dodiuk-Gad RP, Oppel EM, French LE, Chen WT, Chung WH, Chu CY, Kang HR, Ingen-Housz-Oro S, Nakamura K, Sueki H, Abe R**
doi:10.1016/j.jaip.2023.07.001
*:These authors contributed equally to this work
**:corresponding author
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、厚労政策研究難治性疾患政策研究事業重症多形滲出性紅斑に関する調査研究(H26-難治(難)-一般081、JPMH20FC1035)、文部科学省科学研究費助成事業(JP21K16222)などの支援を受けて行われました。
 
【用語解説】
(注1)Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症
薬剤が原因でおこる薬疹のうち最重症の疾患。高熱とともに、眼や口などの粘膜がただれ、皮膚は紅斑・水疱ができて容易に剥ける。
(注2)AUC(Area Under the Curve)
ROC曲線の下の面積であり、AUC値が1.0に近いほど分類モデルとして有効とされる。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医歯学総合病院 皮膚科
講師 濱 菜摘(はま なつみ)
E-mail:natsumih@med.niigata-u.ac.jp
 
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp

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