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2022/09/12 研究成果
HPVワクチンによる子宮頸部前がん病変予防効果を確認 −NIIGATA study:初交前接種でより高い予防効果−

新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の工藤梨沙助教、榎本隆之特任教授、関根正幸准教授らの研究グループは、子宮頸部前がん病変(細胞診異常)に対してHPVワクチン注1,2がどの程度の予防効果を示すかを検討しました。初交前のワクチン接種者では子宮頸部前がん病変(高度扁平上皮内病変:HSIL以上)が有意に減少しており(ワクチン有効率78%)、初交前に接種した場合はHPV16/18型関連の細胞診異常を認めていませんでした。ワクチン接種歴を自治体データにて正確に確認し、初交年齢や経験人数など性的活動性で調整し、HPVワクチンの子宮頸部前がん病変予防効果を明らかにした日本において初めての研究です。
本研究の詳細はCancer Sci.2022 Jun 22. doi: 10.1111/cas.15471.(IF:6.518)に発表されました。
 
【本研究成果のポイント】
・初交前にHPVワクチン接種を受けた20〜26歳の女性では、子宮頸部前がん病変(高度扁平上皮内病変:HSIL以上)に対する有意な予防効果が認められた。
・初交前に接種した場合は、HPVワクチンの主標的型であるHPV16/18型に関連する細胞診異常を認めなかった。
・接種率が激減しているHPVワクチンであるが、HPV感染の予防効果に加えて、子宮頸部前がん病変の予防効果を示した、社会的インパクトの高い知見である。
 
Ⅰ.研究の背景
日本でHPVワクチン接種の公費助成が開始された2010年時点で接種対象年齢であった女性は、現在20歳代の半ばを迎えています。上皮内がんも含めた子宮頸がんのピークが30歳代にあることを踏まえると、子宮頸部前がん病変を示唆する細胞診異常が増える世代でもあります。この世代で前がん病変を予防することが将来の子宮頸がん予防につながります。本研究グループは、HPVワクチンの接種を受けた20-22歳の女性において、HPV16/18型感染に対する高い予防効果と、HPV31/45/52型に対しての有意な予防効果が認められることを報告していました(J Infect Dis. 2019 Jan 9;219(3):382-390)。これまで子宮頸部前がん病変に対するHPVワクチンの予防効果を、性的活動性を加味して解析した日本人女性を対象にした報告はありませんでした。
 
Ⅱ.研究の概要
解析対象は、2014〜2020年に新潟市内で子宮頸がん検診を受けた20〜26歳の女性4553人で、HPVワクチン接種歴と性的活動性(初交年齢、性交経験人数)をアンケート調査し、ワクチン接種歴は自治体接種記録でも確認しました。対象のうち3167例(69.6%)にHPVワクチンの接種歴があり(ワクチン接種群)、1386例(30.4%)は接種歴が確認できませんでした(ワクチン非接種群)。
 
ワクチン接種群とワクチン非接種群で子宮頸部細胞診異常率を比較したところ、軽度扁平上皮内病変(ASC-US)以上の細胞診異常率は、ワクチン非接種群の7.3%に対してワクチン接種群では4.7%と有意に低く(P<0.01)、高度扁平上皮内病変(HSIL)以上の細胞診異常率は、ワクチン非接種群の0.9%に対してワクチン接種群では0.3%と有意に低く(P=0.013)、HSIL以上の細胞診異常に対するワクチン有効率は64%であることが示されました。また、初交前接種者に限定して性的活動性で調整を行うと、ワクチン有効率は78.3%に高まりました。
 
さらに、細胞診異常とHPV感染の関連を詳しく調べたところ、初交前接種者においてはワクチンの主標的型であるHPV16/18型関連の細胞診異常者を認めていませんでした(図)。
 

Ⅲ.研究の成果
ワクチン積極的勧奨の中止以降に接種機会を逃した世代は現在20歳代となり、性的活動性が最も高まる年齢に到達しています。研究グループは、実臨床データを用いて、日本人女性におけるHPVワクチンの子宮頸部前がん病変(細胞診異常)に対するHPVワクチンの有効性を実証しました。子宮頸がんの前がん状態である細胞診異常に対する予防効果が確認されたことは、ワクチンを接種した女性に対しての朗報になります。さらに、ワクチンを初交前に接種することが極めて重要であることも、対象女性に対する大きなメッセージとなりました。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究グループの研究成果をもとに、厚生労働省は2022年4月より12-16歳女子に対するHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開しました。これからHPVワクチンの接種を検討する女性に対しては、このような科学的根拠をもとに、ワクチンの効果を強くアピールしていく必要があります。また、HPVワクチンの接種を既に受けた女性に対しては、「ワクチンにより子宮頸部細胞診異常の予防効果はあるものの、ワクチンを接種した女性でも子宮頸がん検診は必ず受ける必要がある」というメッセージを伝えていくことも必要です。
今後NIIGATA studyでは、キャッチアップ接種の有効性検証や、HPV感染に対する30歳までの長期予防効果を解析する予定です。国民の皆様に向けてHPVワクチンに関する科学的データを発信し続ける予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2022年6月22日、Cancer Science誌に掲載されました。
論文タイトル:Effectiveness of human papillomavirus vaccine against cervical precancer in Japan: Multivariate analyses adjusted for sexual activity
Cancer Sci.2022 2022 Jun 22.
doi: 10.1111/cas.15471.
著者:Kudo R, Sekine M, Yamaguchi M, Hara M, Hanley SJB, Kurosawa M, Adachi S, Ueda Y, Miyagi E, Ikeda S, Yagi A, Enomoto T.
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、AMED: 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(JP15ck0106103)の支援を受けて行われました。
 
 
【用語解説】
(注1)HPV(ヒトパピローマウイルス):パピローマウイルス科に属するウイルスで、200種以上のタイプが同定されている。ウイルスの発がんに関与する能力により高リスク型と低リスク型に分類されている。高リスク型HPVは子宮頸がんの他に肛門がん、口腔咽頭がん、外陰がん、膣がん及び陰茎がんの原因となる。代表的な高リスク型にはHPV16/18/31/33/35/39/45/51/52/56/58/59/68型があり、中でもHPV16/18型で全世界の子宮頸がんの約70%を占めている。また、低リスク型に分類されるHPV6/11型は尖圭コンジローマ(肛門性器のイボ)の原因となる。
 
(注2)HPVワクチン:現在日本の公費接種(12-16歳女子が対象)で受けられるワクチンは、2価ワクチン(2009年10月承認)、4価ワクチン(2011年6月承認)が認可されている。両者共に高リスク型のHPV16/18型を標的としており、4価ワクチンはそれに加えて低リスク型のHPV6/11型も標的としている。さらに、高リスク型のHPV16/18/31/33/45/52/58型と低リスク型のHPV6/11型を標的とする9価ワクチン(2020 年 7 月承認)も希望者は接種を受けることができるが、公費接種可能なワクチンには含まれていない。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野
准教授 関根 正幸(せきね まさゆき)
E-mail:masa@med.niigata-u.ac.jp

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