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2022/11/07 研究成果
正常眼圧緑内障発症の治療標的を発見 −網膜アストロサイトの機能異常が正常眼圧緑内障を引き起こす−

山梨大学大学院総合研究部医学域薬理学講座 小泉修一教授及び篠崎陽一准教授の研究チームは、これまで原因が分からなかった正常眼圧緑内障の発症に関わる分子を発見しました。研究はロンドン大学(UCL)眼科学研究所のルング・アレックスさん(大学院生)及び大沼信一教授との国際共同研究です。また、東京都医学総合研究所 原田高幸参事研究員、生理学研究所超微形態研究部門/自治医科大学解剖学講座 大野伸彦教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科脳機能形態学分野 竹林浩秀教授、山梨大学大学院総合研究部眼科学講座 柏木賢治教授、同学 総合分析実験センター 瀬川高弘講師、社会医学講座 三宅邦夫准教授らが協力しました。
緑内障は眼圧が異常に高くなる事で発症する疾患と考えられていましたが、実際には眼圧が正常範囲内のいわゆる「正常眼圧緑内障[1]」の患者数が圧倒的に多い事が知られています。研究チームは、世界中の緑内障患者を対象としたGWAS[2]と呼ばれる遺伝子変異解析のデータベースから、「ATP-binding cassette transporter A1 (ABCA1)[3]」の異常を見いだし、この分子に注目した解析を始めました。マウスを使った実験により、ABCA1が網膜や視神経周囲に存在する「グリア細胞[4]」と呼ばれる細胞群のうち、「アストロサイト[5]」に存在している事、このABCA1の機能が損なわれると眼圧が正常にもかかわらず網膜の神経細胞が傷害され正常眼圧緑内障様の症状を引き起こす事、を発見しました。また、「1細胞RNAシークエンス[6]」による解析から、アストロサイトは「ケモカイン[7]」を産生する事や、グルタミン酸受容体サブタイプ「NR3A[8]」を持つ神経細胞が選択的に傷害を受ける事を明らかにしました。これらは世界で初めてアストロサイトが緑内障の新たな治療標的となる可能性を示す成果です。本研究成果は米国科学振興協会(AAAS)が刊行するオープンアクセス誌Science Advancesに掲載されました。
 
 
【用語説明】
[1] 正常眼圧緑内障
緑内障は、網膜神経節細胞(RGC)と呼ばれる網膜の神経細胞が傷害される事によって、次第に視野が欠損していく病気です。眼圧上昇が最も良く知られたリスク因子の1つですが、アジア人、特に日本人では緑内障患者であっても多くの方の眼圧が正常範囲内に収まる事から、眼圧以外の要因がこの病気の原因である可能性が考えられます。
[2] ゲノムワイド関連解析 (GWAS)
私たちの遺伝子はDNAの塩基配列(A、T、C、G)の組み合わせによってコードされていますが、同じ遺伝子をコードする配列でも人によって塩基のごく一部が異なる場合があります。これを一塩基多型(SNPs)と呼びますが、GWASはゲノム全体をカバーするほどの広い領域におけるSNPsの頻度を検出し、その頻度と疾患との関連性を統計学的に調べる方法です。この解析により、特定の遺伝子と疾患のリスクとの関係を推定します。
[3] ATP-binding cassette transporter (ABCA1)
ABC輸送体と呼ばれる膜タンパク質の1つです。ATPのエネルギーを用いて様々な化合物を細胞膜内外へと輸送します。ABCA1は、遊離脂肪酸やコレステロールなどの脂質を細胞外へと輸送してアポリポタンパクEなどに受け渡します。ABCA1はその他にも貪食作用、飲食作用、免疫細胞機能、開口放出、細胞内シグナル伝達、抗炎症作用など様々な機能を調節します。
[4] グリア細胞
脳などの中枢神経系を構成する細胞の1種です。ヒトでは神経細胞よりも数が豊富です。グリア細胞は、神経細胞のように電気生理的な興奮性を示さないので、静的で活動しない細胞と考えられて来ましたが、近年までの研究から非常に活発に活動している細胞である事が明らかとなっています。グリア細胞にはアストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトなどが含まれます。
[5] アストロサイト
グリア細胞の1種です。最も大きく、数も多い細胞種です。これまでは脳内の支持及び恒常性維持の役割を担うと考えられてきましたが、最近は脳の情報処理にも積極的に関与する事が明らかとなっています。アストロサイトは網膜の最内層表面や視神経の周囲にも存在します。網膜実質内には、アストロサイトに似たミューラー細胞も存在します。
[6] 1細胞RNAシークエンス
1細胞RNAシークエンスは、網膜など組織内の細胞を1つ1つ分離して、それら1つの細胞が保持しているメッセンジャーRNAの状態や量を網羅的に調べる方法です。得られた量的情報をデジタル化し、情報学的に解析(バイオインフォマティクス)する事によって医学生物学的メカニズムを客観的かつ網羅的に解析する事ができます。
[7] ケモカイン
ケモカインは、サイトカインと呼ばれる細胞間情報伝達物質の1種で、塩基性タンパク質です。白血球などの遊走を引き起こし、炎症を惹起します。
[8] NR3A
NR3Aは、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体を構成するサブユニットの1種です。NMDA受容体は、NR1及びNR2またはNR3サブユニットで構成され、イオンチャネルを形成します。生体内ではグルタミン酸が結合して活性化します。NR3はドミナントネガティブ型とも呼ばれ、イオンチャネルの活性を抑制します。
 
 
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本研究科の共同研究者
大学院医歯学総合研究科脳機能形態学分野
/神経解剖学分野
竹林浩秀 教授
E-mail: takebaya@med.niigata-u.ac.jp
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内容は以下のPDFをご確認ください。
正常眼圧緑内障発症の治療標的を発見 −網膜アストロサイトの機能異常が正常眼圧緑内障を引き起こす−(PDF)

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