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2024/01/29 研究成果
血液透析患者のALPの国際比較により予後との関連を発見 −大規模国際コホート研究DOPPSデータの解析−

新潟大学医歯学総合病院血液浄化療法部の山本卓病院教授、東海大学医学部腎内分泌代謝内科学の深川雅史教授、駒場大峰准教授は、血液透析患者の国際共同研究 the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study(DOPPS)に参加し、2005年から2021年の日本を含む9か国28,888人の血液透析患者を調査しました。その結果、血液透析患者の生命予後、心血管疾患、そして骨折にアルカリフォスファターゼ(ALP)(注1)が強く関連していることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・血液透析患者の死亡、心血管疾患、および骨折に高ALP血症が強く関連していることを示しました。
・日本のALP値は世界的にみると低く管理されていました。
・ALPを適切に管理することで、血液透析患者の予後を改善することが期待されます。
 
Ⅰ.研究の背景
慢性腎臓病(注2)が進行すると血液透析(注3)をはじめとする腎代替療法(注4)が必要となります。血液透析患者は、様々な合併症のため生命予後が悪いことが知られています。
二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)(注5)は血液透析患者に高頻度に発症する合併症の一つです。副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌され、骨をはじめとする全身の臓器に作用します。その結果、SHPTは血液透析患者の死亡、心血管疾患、そして骨折のリスクを増やします。例えば過剰に分泌されたPTHが骨に作用すると骨代謝が亢進して、骨折が起こりやすくなります。しかし血中PTH濃度と骨折に関しては関連が大きいという報告と、小さいという報告があり、見解が一致していませんでした。
ALPは、PTHが骨に作用した結果、骨から分泌される酵素で骨代謝の結果を表すと考えられます。これまでもALPが血液透析患者の予後に関連したという報告はいくつかありましたが、PTHの作用と比較した報告はありませんでした。
 
Ⅱ.研究の概要
この研究ではDOPPSのデータを使用し、2005年から2021年の日本を含む9か国28,888人の血液透析患者を調査しました。それらの血中ALP値とPTH値に総死亡(注6)、心血管疾患(注7)による死亡、および骨折との関連を解析しました。
その結果、日本のALPとPTHの血中濃度は他国と比較して低値でした(図1)。ALP高値は低カルシウム血症、低リン血症、カルシミメティクス(注8)使用と関連しました。ALPは、総死亡、心血管疾患による死亡、および骨折と明らかな関連を示し、それはPTHとの関連と比較して強く現れました(図2)。

Ⅲ.研究の成果
大規模国際共同研究のデータ解析から、血液透析患者ではALPはPTHより、死亡、心血管疾患、そして骨折と強く関連することが示されました。この結果は、SHPTの病態を考える際に、PTHだけでなく骨代謝を評価し、ALPをはじめとする骨代謝マーカーを適切に管理することが、血液透析患者に有益である可能性を示しました。
 
Ⅳ.今後の展開
本報告は、血液透析患者のALPの特徴と予後の関連を調査した観察研究です。そのためSHPTの治療により、PTHだけでなくALPを適切に管理することで血液透析患者の予後が改善するかを検証する介入研究の実現が望まれます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2024年1月10日、科学誌「Kidney International Reports」に掲載されました。
論文タイトル:Alkaline phosphatase and parathyroid hormone levels: International variation and associations with clinical outcomes in the DOPPS
著者:Suguru Yamamoto, Hanne Skou Jørgensen, Junhui Zhao, Angelo Karaboyas, Hirotaka Komaba, Marc Vervloet, Sandro Mazzaferro, Etienne Cavalier, Brian Bieber, Bruce Robinson, Pieter Evenepoel, Masafumi Fukagawa
doi: 10.1016/j.ekir.2024.01.002

Ⅵ.謝辞
本研究は、協和キリン株式会社、公益社団法人日本腎臓財団の支援を受けて行われました。
 
 
【用語解説】
(注1)アルカリフォスファターゼ(ALP)
肝臓や腎臓、腸粘膜、骨などで作られる酵素。骨では骨芽細胞が活性化した際に産生され、全体の50%を占めるといわれる。本研究では高度な肝機能障害と炎症反応を伴う血液透析患者は対象から除外した。
 
(注2)慢性腎臓病
糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎、などを原因に慢性に経過する腎臓病。
 
(注3)血液透析
腎機能が低下した患者に対して、体外で、血液の老廃物や水分を除去し、血液を浄化する腎代替療法の一つ。
 
(注4)腎代替療法
腎機能が高度に低下した際に選択される腎臓の代わりとなる、あるいはサポートする治療方法。主に血液透析、腹膜透析、そして腎移植がある。
 
(注5)二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)
腎機能が低下した際に、リンの排泄低下、ビタミンDの活性低下により、PTHが過剰に分泌される。
 
(注6)総死亡
あらゆる原因による死亡。
 
(注7)心血管疾患
この研究では心筋梗塞、心膜炎、心筋症、心臓不整脈、心停止、弁膜性心疾患、肺水腫、うっ血性心不全、脳血管障害、カリウム値異常による心臓と血管の異常を原因とするものを心血管疾患と定義した。
 
(注8)カルシミメティクス
カルリウム感受性受容体に選択的に作用する薬剤でSHPT治療の一つ。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医歯学総合病院 血液浄化療法部
病院教授 山本卓(やまもとすぐる)
E-mail:yamamots@med.niigata-u.ac.jp
 
東海大学医学部腎内分泌代謝内科学
教授 深川雅史(ふかがわまさふみ)
准教授 駒場大峰(こまばひろたか)
E-mail:hkomaba@tokai-u.jp
 
【広報担当】
新潟大学広報事務室
E-mail:pr-office@adm.niigata-u.ac.jp
 
東海大学学長室広報担当:喜友名(きゆな)、林
E-mail:pr@tsc.u-tokai.ac.jp

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