新潟大学大学院 医歯学総合研究科 循環器内科

心血管カテーテル治療領域分野

虚血性心疾患とは ― 狭心症と心筋梗塞 ―

 心臓に酸素や栄養を運ぶ血管(冠動脈と呼ばれます)の動脈硬化が進行して起こる病気を総称して虚血性心疾患と呼び、「狭心症」と「心筋梗塞」の2つに大別されます。どちらも一度は耳にしたことのある病名かと思いますが、病態は大きく異なります。前者は一過性に心筋への血流が不十分となり短時間の胸痛発作を繰り返すのに対して、後者は心筋への血流が途絶することで突然発症し、激しい胸痛が持続します。これを放置すると心筋の壊死が進行して心臓の働きは著しく低下し、また高率に不整脈を合併して非常に危険な状態となるため、直ちに専門の医療機関に搬送して適切な治療を行う必要があります。

虚血性心疾患の治療

― 経皮的冠動脈形成術・ステント留置術:PCI

 「狭心症」や「心筋梗塞」など、心臓に栄養を与えている冠動脈が動脈硬化によって狭くなる疾患(虚血性心疾患)に対するカテーテル手術です。

 まず、狭窄・閉塞部位に、柔らかくて細い針金(ガイドワイヤー)を通過させます。次に、血管内超音波や光干渉断層、血管内視鏡などを用いて血管の内腔の状態を観察します(施行しない場合や後述の手技を優先させる場合もあります)。引き続き、様々なデバイス(=道具:バルーン、方向性冠動脈粥腫切除カテーテル、エキシマレーザー、ロータブレーター、ダイヤモンドバック など)を用いて、狭窄あるいは閉塞している冠動脈の内腔を開大させます。最後にチューブ状の金網(ステント)を留置し終了となります(状況によってはステントを留置しない場合もあります)。心機能の低下した患者様などハイリスクな方に対してPCIを行う際には、大動脈内バルーンパンピング(IABP)やIMPELLAといった補助循環装置を使用しながらPCIを行うこともあります。

経皮的冠動脈形成術・ステント留置術(PCI)で使用するデバイスの紹介

 PCI時には様々なデバイスを用いて、狭窄した血管を広げます。

ロータブレーター:先端にダイヤモンドがコーティングされた丸い金属を冠動脈内で回転させることで、石灰化して固くなった血管を削ります。施設基準を満たした病院でのみ使用が可能です。

ダイヤモンドバック:先端から6.5mmのところにクラウンと呼ばれるダイヤモンドで構成された部分があり、クラウンを高速回転させることで、石灰化病変を削ることができます。病変に応じてロータブレーターとの使い分けを行っています。施設基準を満たした病院でのみ使用が可能です。

方向性冠動脈粥腫切除カテーテル:冠動脈内のプラークを、カテーテルについた刃によって鉋(かんな)のように削り取ります。

エキシマレーザー:冠動脈に挿入されたカテーテルの先端から照射されるエキシマレーザーエネルギーによって、動脈硬化組織を蒸散させ、冠動脈狭窄部を広げます。

血管内イメージングの紹介

血管内超音波(IVUS):超音波を用いて血管内部の断層画像をリアルタイムで見る事が出来る検査です。血管内腔のサイズやプラークの性状を詳しく調べることができます。IVUSを使用することによって、より安全にPCIを行うことができます。

光干渉断層法(OCT):近赤外線を用いて血管内部の断層画像をリアルタイムで見る事が出来る検査です。IVUSの約10倍の空間分解能があるため、血管表層の詳細な観察が可能になり、石灰化や血栓の評価に優れています。

血管内視鏡(Angioscope):光ファイバーを入れた内視鏡カテーテルを冠動脈内へ挿入し、冠動脈内壁を直接観察することができる検査です。

― 経カテーテル末梢動脈形成術(血管内治療):PPI(EVT)

 歩行時に下肢(股関節から足首まで)・特にふくらはぎに出現するだるさ・痛み・張りなどの症状や、足が冷たくて痛い・足の色が紫色などで悪い、足趾の傷が治りにくいなどの症状の原因として、閉塞性動脈硬化症という病気があります。また、難治性高血圧や繰り返す心不全の原因として、腎動脈狭窄症という病気が隠れている可能性があります。

 これらの病気を総称して末梢動脈疾患と呼びます。薬物治療の効果が乏しい場合、カテーテルによる血行再建術(狭い血管を広げて血流を改善させる)が適応になります。

 肘や足の付け根から局所麻酔をして、細い管(カテーテル)を血管の中に通し、ガイドワイヤーという細い針金で狭くなった(あるいは詰まった)血管を通し、風船をふくらませて血管を広げます。血管が広がったら、ステントと呼ばれる金属製の網状の管を入れて固定し、再び血管が詰まるのを防ぎます。ただし治療の場所によってはステントが留置できないこともあります。最近は、再狭窄を予防する薬剤を塗布した風船や金網もあり、当院ではいずれも使用が可能です。

 所要時間は約1~3時間程度で、傷口は小さくてすみます。入院期間は4~5日程度で、患者さんの負担が少ない低侵襲な治療です。

― 経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)

 TAVIとはtranscatheter aortic valve implantationの略語で、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁留置術のことを指します。これまで大動脈弁狭窄症の患者さんには外科的な大動脈弁置換術が唯一の治療でした。安定した成績を示してきた大動脈弁置換術は現在でも大動脈弁狭窄症に対する治療のgold standardです。しかし、大動脈弁狭窄症は加齢に伴う動脈硬化を主原因であり、高齢をはじめ多くの合併症により手術の危険性が大きい患者さんが少なからず存在します。TAVIは、主に大腿動脈よりカテーテルを用いて狭窄した大動脈弁の内側に新たな人工弁(TAVI弁)を留置する治療であり、その侵襲の小ささが大きな特徴です。そのため、外科的手術の危険性が大きい患者さんを中心に大きな広がりをみせています。当院では、心臓血管外科、麻酔科および当科を中心としたハートチームを結成し、2020年12月よりTAVIを開始いたしました。

― 経皮的僧帽弁接合不全修復術:MitraClip

 手術リスクが高く開心手術が困難な重症僧帽弁閉鎖不全症に対する低侵襲カテーテル治療で、当院では2019年5月から開始しています。

 全身麻酔で、経食道心エコーを用いてカテーテルの動きをみながら行います。足の静脈からカテーテルを挿入し、心房中隔という心房の間にある壁に孔をあけ(心房中隔穿刺)、左房にカテーテルを挿入します。カテーテルの先端(クリップ)で僧帽弁を挟むことで、逆流の原因となっている接合不全を改善させ、逆流を減少させる治療です。

― 肺動脈バルーン拡張術:BPA

 肺動脈に血栓が詰まりそれが器質化することで肺の血圧が上がり、息切れが強くなる指定難病、「慢性血栓塞栓性肺高血圧症」に対するカテーテル手術です。外科的手術が難しい患者さんに対して局所麻酔のカテーテル手術を行っています。おおよそ一回あたり3時間の手術を計4-6回程度行うことで全肺の器質化血栓により狭窄、閉塞した肺動脈を拡張しています。肺高血圧症が改善することで酸素や薬の減量が可能です。

― 経皮的心室中隔心筋焼灼術:PTSMA

 心臓(左心室)の出口の筋肉(中隔心筋)が張り出していることで血流が出にくくなる病気「閉塞性肥大型心筋症または左室流出路狭窄」に対する局所麻酔のカテーテル治療です。カテーテルで中隔心筋に流れている血管(左冠動脈中隔枝)にアルコールを注入することで、一部の心筋を壊死させることで出口を広げる治療です。

 本邦の成績では、95%以上で症状の改善が得られ、約70%で症状がほぼ消失したという報告があります。

― 経皮的僧帽弁交連裂開術:PTMC

 一般的にはリウマチ熱後遺症の僧帽弁狭窄症に対し下肢静脈からカテーテルを挿入し、僧帽弁部でバルーンを開大し弁を広げる手術です。現在はリウマチ熱減少に伴い典型的な症例は減っていますが、むしろ20-30年前にPTMC施行された方の再狭窄が問題となっています。適応があれば再PTMCも可能です。

― 経皮的心房中隔欠損閉鎖術:ASO

 心房中隔欠損は心房間の壁に生まれつき交通がある心疾患で、欠損孔が大きい場合は心臓や肺の負担となるため閉鎖が必要です。従来の外科的閉鎖術に加え、2005年から国内でカテーテルによる閉鎖が可能となりました。全身麻酔下で足の静脈から入れたカテーテルを欠損孔に通し、専用の閉鎖栓で欠損孔の両側から挟むように閉鎖する治療です。外科的閉鎖術と比べ、閉鎖栓が体内に残るという欠点がありますが、胸に傷を残さないこと、体への負担が小さいこと、約1週間で退院できることが利点です。

― 経皮的動脈管閉鎖術:PDA

 動脈管開存は出生後に動脈管が自然閉鎖せずに残る心疾患です。動脈管が太く開存している場合は心臓や肺への負担となり、細い場合でも動脈瘤の形成や感染の危険があるため閉鎖が必要です。従来の外科的結紮術に加え、1990年後半から国内でコイルを用いたカテーテル閉鎖術が可能となり、2009年からは専用の閉鎖栓により太い動脈管も閉鎖可能となりました。現在は閉鎖栓の種類が増え、ほぼすべての動脈管をカテーテルで閉鎖できるようになっています。足の静脈あるいは動脈から入れたカテーテルを動脈管に通し、専用の閉鎖栓で動脈管を閉鎖する治療です。外科的結紮術と比べ、閉鎖栓が体内に残るという欠点がありますが、胸に傷を残さないこと、体への負担が小さいこと、約1週間で退院できることが利点で、現在では治療の第一選択となっています。