心不全領域分野
心不全とは?
心臓は血液を巡らせるポンプであり、血液を汲みあげたり、送りだしたりする働きが不十分な状態が心不全です。汲みあげられないと臓器はうっ血し、送りだせないと臓器は低灌流となります。このとき、息切れ・むくみ・倦怠感などがみられ、体を動かすのがつらくなります。
心不全患者さんは増え続けており、ひとたび発症して入院をくり返すと、体が弱り命を縮めるため、社会問題ととらえられています。患者さんには、きちんと状態を知っていただき、担当医や多くの医療従事者と協力して自己管理をしていただきたいです。
- (日本心臓財団のホームページより転用)
診断
1. 状態の診断
問診で、どのような症状が、どのくらいの運動であらわれるのかを確認し、身体診察で、低灌流やうっ血をしめす所見があるか、また、心電図・胸部X線・血液検査で心臓の異常があるかを確認します。心不全が疑われると、心エコー図検査で心臓が血液を送りだしたり、汲みあげたりできているかを確認します。血液を送り出す量(心拍出量)やうっ血の程度(静脈や心房の圧)を正確に測るには、入院して心臓カテーテル検査を受けてもらう必要があります。
2. 原因の診断
心不全には原因となる心臓病や併存疾患があり、それらを明らかにしないまま治療をするのは、火を消して火元を絶たないのと同じです。検査は多くなりますが、きちんとはじめに調べておくことが肝心です。以下のような原因がないか、調べます。
- 「インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス」トーアエイヨー より改変
・虚血性心疾患 ・弁膜症 ・心筋症 ・肺高血圧症 ・不整脈 ・先天性心疾患 など
※ 各疾患については、下記の「原因別の診断と治療」をご覧ください。
一般的な治療
疾患別の治療は次の項に示し、まずは一般的な治療について述べます。
1. 薬物治療
「目に見える治療」
息切れ・むくみ・倦怠感といった、症状や所見をよくする治療を私たちは「目に見える治療」と呼んでいます。具体的には、血液の汲みのこしを減らすために利尿薬をつかったり、心臓のポンプが血液を送り出しやすくするために血管を拡げる薬や強心薬をつかったりします。これにより症状は改善をはかります。
「目に見えない治療」
症状が改善したあとは、心不全を繰り返さないように、心臓自体をよくする、あるいは悪くしないことが大切です。とくに、心臓のポンプの送り出しが不十分な心臓ではアドレナリンをはじめとする心臓を刺激するホルモンによって、心臓が弱っていくため、心臓を休ませるような薬を服用します。β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ARNI、MRA、SGLT-2阻害薬、イバブラジンなどが、挙げられます。薬をのんでも効いているという実感は伴わなくとも、将来のために服用します。
2. 緊急時の機械的循環サポート
大動脈内バルーンポンピング(IABP)や、経皮的心肺補助(V-A ECMO)、さらに、インペラ(IMPELLA)や、体外設置型補助人工心臓(体外設置型VAD)といった、カテーテルや手術により装着する機器で、短期的に、低還流やうっ血を改善させます。
3. カテーテル治療・デバイス治療
虚血性心筋症、弁膜症、不整脈、が原因の場合、各種カテーテル治療が有効であり、詳しくは、虚血班、不整脈班からの案内を見てみてください。
4. 補助人工心臓・心臓移植
種々の治療に反応しない重症心不全の場合、心臓移植という選択肢があります。ただし、新潟大学は心臓移植施設ではなく他院で受ける必要があること、患者さんは65歳未満であること、心臓以外に重大な病気がないこと、ご家族のサポートが十分えられること、など制約があります。
心臓移植は待機期間が5~8年であり、重症心不全患者さんがこの期間を乗り切るためには、補助人工心臓が必要で、待機期間中に自宅や社会で暮らせるよう、植込型補助人工心臓(植込型VAD)を植え込んで移植待機になります。植込みは移植施設にお願いしており、場合によっては救急車やヘリコプターで搬送して植え込んでいただきますが、外来通院は当院で可能ですので新潟で待機できます。
5. 心臓リハビリテーション
心不全では、入院を繰り返したり、どんどん動けなくなったりすることがないように、服薬・食事・運動などを適切に行うことが大切です。私たちは、多職種と連携して、入院患者さんの日常生活を心臓病に適したものにするお手伝いをしており、これを「心臓リハビリテーション」と呼びます。
入院中に体が衰えぬように運動療法をしたり、心肺運動負荷試験を行っておすすめする運動量を決めたり、服薬指導・栄養指導をしたり、社会福祉利用のサポートをしたりしています。
原因別の診断・治療(カテーテル治療・デバイス治療)
虚血性心筋症、弁膜症、不整脈については、虚血班と不整脈班の記載をご参照いただき、主に心不全班で担当する診断について説明します。
1. 心筋症
心臓は主に筋肉組織でできたポンプであり、心筋細胞とその働きを支える組織により構成されます。心筋細胞そのもの病気、あるいは心筋細胞をとりまく組織の異常によるポンプ障害が心筋症です。主に以下のものがあって、難病にも指定されています(厚生労働省)。
・特発性拡張型心筋症 ・肥大型心筋症 ・拘束型心筋症 ・サルコイドーシス
・ミトコンドリア病 ・ライソソーム病(ファブリー病など) ・アミロイドーシス ・筋ジストロフィー
特発性拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症は、心不全症状と心臓形態で診断します。明らかな原因がないのが特徴で、当科では、カテーテル検査による心筋生検で、本当に原因がないか確認しており、遺伝子検査をすることがあります。治療は前記の一般的治療を行います。
サルコイドーシスは、“肉芽腫”と呼ばれる“しこり”ができ、心臓にできると心筋組織が侵食されてポンプ機能が低下したり、不整脈の原因になったりします。眼や肺など他の臓器にもできることがあり多くの科の協力を得て診断します。FDG-PETの心臓への集積の確認や、心筋生検での“肉芽腫”の存在が診断の決め手になります。
ミトコンドリア病は、細胞内でエネルギーを生み出すミトコンドリアの異常によりポンプ機能が低下する病気で、ミトコンドリアが卵細胞由来であるため、母からの遺伝がほとんどで、脳や筋肉や腎臓など、エネルギーを多く使う臓器の不具合も一緒にみられることがあります。心筋生検でのミトコンドリアの形態異常が診断のきっかけになることもあり、ミトコンドリアの遺伝子異常で診断します。
ライソソーム病では、細胞内の不要物を分解するライソソームの働きが悪いために生じます。ライソソームの中で働く酵素が欠損することで生じ、老廃物は光学顕微鏡で空胞に見えたり、電子顕微鏡の異常物資として見えたりします。酵素の遺伝子異常で診断でき、αガラクトシダーゼ欠損によるファブリー病が代表的な疾患です。ファブリー病では、点滴での酵素補充や、内服での酵素生成促進ができます。
アミロイドーシスでは、アミロイドと呼ばれる蛋白質が臓器に沈着することで機能障害を起こす病気です。心臓では、心筋周囲に沈着して心臓を硬くしたり、心筋の収縮を妨げたり、不整脈を起こしたりします。アミロイドには種々の原因がありますが、心臓に多いのは、血液疾患に伴うもの(ALアミロイドーシス)、神経疾患や加齢に伴うもの(ATTRアミロイドーシス)です。骨髄穿刺や、皮下脂肪、皮膚、心筋の生検検査を行います。ATTRアミロイドーシスではアイソトープ検査も有用です。ALアミロイドーシスでは血液内科の先生と協力して化学療法や骨髄移植を、ATTRアミロイドーシスでは内服治療や、脳神経内科の先生と協力して点滴治療を行い、沈着を防ぎます。
筋ジストロフィーは体や手足の筋力が低下する疾患ですが、心臓も主に筋肉でできているために機能が低下していることがあります。脳神経内科ですでに診ていただいていることが多いのですが、疑わしいときには、新たに診ていただいて、筋肉の検査や治療をうけていただきます。
4. 肺高血圧症
通常、肺の血圧(肺動脈圧)は、体の血圧とくらべて、5分の1程度で、平均血圧が25mmHg を超えると、「肺高血圧」と診断されます。ふつうの「高血圧」が収縮期140/拡張期90mmHg以上であることを考えると、かなり厳しい診断基準です。
これは、肺に血液を送る右心室が、全身に血液を送る左心室に比べ、壁が薄くて形も複雑なため、高い圧力で血液を送り出すことができなくなり、低還流やうっ血が生じ、命に関わるからです。20数年前までは不治の病でしたが、肺の動脈を選択的に拡げる薬が使えるようになり、長期に安定している患者さんが増えています。
一方、そうした薬が効かなかったり、不十分だったりする肺高血圧患者さんもいます。心臓病や肺疾患や膠原病の患者さん、肺動脈に血栓が詰まっている患者さんなどです。このため、肺高血圧症では、種々の検査を行い、原因や併存疾患に合わせて、治療の仕方を変えています。
診断のための検査やその所見には下記のようなものがあります。
5. 先天性心疾患
各種画像検査やカテーテル検査での診断により、状態を確認して、適切な治療(内服治療、カテーテル治療、外科的治療)に結びつけます。
- ⇒ カテーテル検査ののち肺血管拡張薬の使用
Fontan手術後の例
心房肺動脈吻合(APC)によるFontan術後、遠隔期に右心房血栓を生じた患者さんにカテーテル検査ほか、評価。