ヒト正常子宮内膜と子宮腺筋症病巣の3次元構造を解明
新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の榎本隆之教授、吉原弘祐講師、同大学医歯学総合病院総合周産期母子医療センターの山口真奈子特任助教らは、同大学脳研究所システム脳病態学分野の田井中一貴教授との共同研究により、ヒト子宮組織の透明化と3D画像解析を行い、正常子宮内膜や子宮腺筋症病巣の3次元構造を解明しました。この発見によって、内膜腺管は百年来一本ずつが独立して存在していると組織学の教科書では記載されていましたが、実は基底層でいくつかの腺管同士が繋がり、ネットワークを形成していることが明らかとなりました。正常子宮内膜の立体構造の解明は、組織学の教科書を書き換えるだけでなく、受精卵の着床機序や子宮内膜がんの発生機序の解明に繋がる重要な知見です。本研究結果はCell Press社の科学雑誌iScienceに掲載されました。
【本研究成果のポイント】
・これまで2次元画像によって理解されてきたヒト子宮内膜の構造を3次元で観察することにより、ヒト子宮内膜の基底層には腺管の網目構造(地下茎)が存在し、複数の腺管が地下茎を共有していることを明らかにしました。
・子宮腺筋症(子宮内膜組織が異所性に筋層内で増殖する疾患)の病巣の3次元構造解析に成功し、内膜組織が子宮筋層内に入り込んで蟻の巣のようなネットワーク構造を形成していることを明らかにしました。
Ⅰ.研究の背景
ヒトは「月経」という生理現象を有する極めてまれな動物です。ヒトの子宮内膜は毎月のように剥離・再生を繰り返しています。子宮内膜を構成している腺管は、コイル状のうねりや、しばしば分岐を伴いながら、表層の開口部から機能層(月経で剥がれ落ちる部分)を通って基底層(月経でも残存する部分)まで続いています。これまで子宮内膜の腺管の構造は病理切片画像による2次元的な観察によって定義づけられてきました。しかしながら、腺管はうねりや分岐を伴う複雑な形態をしているため、その正確な3次元構造は明らかになっていませんでした。子宮内膜の腺管は受精卵の着床に必須であり、さらに子宮内膜関連疾患(子宮腺筋症、子宮内膜症、内膜症関連卵巣癌)や子宮体癌の発生母地でもあります。近年、病理学的に「正常」な子宮内膜腺管組織に多数の癌関連遺伝子変異があることがわかってきており、正常内膜組織への注目が高まっています。子宮内膜腺管の正確な3次元構造を理解することは、あらゆる産婦人科疾患の病態を解明するうえで極めて重要です。
Ⅱ.研究の概要
本研究グループは、子宮内膜に異常のない婦人科疾患のために子宮摘出手術を受けた方より研究参加の同意を頂き、摘出子宮から採取した組織の3D画像解析を行いました。具体的には、数�个�ら数�儚僂棒擇蟒个靴浸匍楞反イ�CUBIC*1という手法を用いて透明化し、さらに上皮組織のマーカーであるCK7で蛍光染色を行いました。シート証明顕微鏡を用いて透明化した標本を撮影し、画像解析ソフトを用いて得られた画像データを3D化し、観察・解析しました(図1)。合計で20個の正常子宮内膜サンプルと4個の子宮腺筋症サンプルを撮影し、その特徴的な3次元構造を評価しました。
Ⅲ.研究の成果
正常子宮内膜組織を3Dで観察することによって、腺管が分岐するだけでなく、基底層で網目のような構造(地下茎)を形成し、しばしば複数の腺管が同一の網目構造を共有していることがわかりました(図2)。この地下茎構造は観察した正常子宮内膜20サンプル全てで観察されました。この発見から、正常子宮内膜の組織学的構造の新しい概念を提唱しました(図3)。
次に、子宮内膜関連疾患である子宮腺筋症(子宮内膜組織が異所性に筋層内で増殖する疾患)の3D化を行いました。子宮腺筋症の発症メカニズムには様々な説があり、どのように筋層内で異所性の内膜組織が発生し、腺筋症病巣を形成するのかはよくわかっていませんでした。今回の3D解析によって、腺管が子宮内膜から直接筋層へ侵入する様子を初めて3Dで捉えました。さらに、異所性の子宮内膜腺管組織が筋層内で細い枝を伸ばして広がっていき、蟻の巣のような3次元構造を形成していることを発見しました(図4、5)。
本研究の画像や動画はWeb上でもデータベースとして公開しています。(https://true.med.niigata-u.ac.jp/)
Ⅳ.今後の展開
ヒト子宮内膜は剥離と再生を繰り返す組織であるため、幹細胞*2が存在すると言われていますが、いまだにその正確な所在はわかっていません。また、月経を起こさないマウスの子宮内膜腺管3D解析の既報では今回のような地下茎構造は存在していません。ヒト子宮内膜基底層の地下茎構造は剥離時の幹細胞の保護に有利に働いていると考えられ、今後の幹細胞研究の重要な要素となる可能性があります。さらに、近年正常子宮内膜腺管や腺筋症の異所性内膜上皮に癌関連遺伝子変異が存在することがわかっていますが、これらの組織の3次元構造とゲノム解析を組み合わせることで遺伝子変異の空間的な広がり方や内膜関連疾患・子宮体癌の発症メカニズムの解明につながることが期待されます。
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2021年3月2日、iScience誌に掲載されました。
論文タイトル:Three-Dimensional understanding of the morphological complexity of the human uterine endometrium
著者:Manako Yamaguchi, Kosuke Yoshihara, Kazuaki Suda, Hirofumi Nakaoka, Nozomi Yachida, Haruka Ueda, Kentaro Sugino, Yutaro Mori, Kaoru Yamawaki, Ryo Tamura, Tatsuya Ishiguro, Teiichi Motoyama, Yu Watanabe, Shujiro Okuda, Kazuki Tainaka, Takayuki Enomoto
doi: 10.1016/j.isci.2021.102258
注)
*1 CUBIC
Clear, Unobstructed Brain/Body Imaging Cocktails and Computational analysisの略で、臓器透明化と3次元イメージングのための化合物の混合溶液とコンピュータを用いた画像解析の手法を指す。本研究では共同研究者の田井中一貴教授らが開発したCUBIC-LとCUBIC-R+という透明化試薬を用いて子宮組織の透明化を行った。
*2 幹細胞
自己複製能と様々な細胞に分化する能力を持つ特殊な細胞。発生過程や、細胞死、損傷組織の再生において、新しい細胞を供給する役割を持つと考えられている。
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 産科婦人科学分野
教授 榎本 隆之(えのもと たかゆき)
E-mail:enomoto@med.niigata-u.ac.jp
大学院医歯学総合研究科 産科婦人科学分野
講師 吉原 弘祐(よしはら こうすけ)
E-mail:yoshikou@med.niigata-u.ac.jp
新潟大学医歯学総合病院総合周産期母子医療センター
特任助教 山口 真奈子(やまぐち まなこ)
E-mail:manako0131@med.niigata-u.ac.jp









