抗がん剤の感受性を予測する血液マーカーを確立 −シスプラチンの効果を予測するAPM2蛋白の有用性とメカニズムを解明−
新潟大学医学部医学科総合診療学講座の上村顕也特任教授、同大学医歯学総合病院魚沼地域医療教育センターの須田剛士特任教授、同大学大学院医歯学総合研究科新領域開拓研究センターバイオインフォマティクス分野の奥田修二郎准教授、同研究科消化器内科学分野の青�頬�名誉教授、同研究科消化器・一般外科学分野の若井俊文教授、同研究科消化器内科学分野の寺井崇二教授らの研究グループは、Adipose most abundant gene transcript 2 protein (APM2)という蛋白がシスプラチン(注1)に抵抗して腫瘍増殖を促進するメカニズム及び、血液中のAPM2蛋白の濃度が抗がん剤の一つであるシスプラチンに対する抗腫瘍効果の予測に有用であることを明らかにしました。シスプラチンの効果予測マーカーの確立で、患者さんそれぞれにより最適な治療を選択するための指標になる可能性があります。
【本研究成果のポイント】
・シスプラチンは様々な癌に有効で、重要な薬剤です。一方で、腎障害や血球減少などの副作用も出現するので、効果と副作用を慎重に判断しながら使用します。
・血液中のAPM2という蛋白の濃度がシスプラチンの効果と関連があることを明らかにし、そのメカニズムを明らかにしました。
・血液中のAPM2の濃度がシスプラチンの効果予測に有用であることを明らかにしました。
・抗がん治療は日々進歩しており、それぞれの患者さんに適した治療法を選択するための指標になる可能性があります。
Ⅰ.研究の背景
シスプラチンは肝癌や胃癌を含む多くの癌種に有効性を示す重要な抗がん剤です。一方で、腎障害や血球減少などの副作用を呈すること、分子標的治療薬(注2)や免疫チェックポイント阻害薬(注3)などの進歩があり、患者さんそれぞれに最適な治療を選択するための効果予測マーカーの確立が有用と考えました。本研究グループは、Adipose most abundant gene transcript 2 protein (APM2)という蛋白が、シスプラチンに抵抗して腫瘍細胞の増殖を促進するメカニズムを明らかにしました。そこで、血液中のAPM2濃度が、シスプラチンの効果予測に有用なのではないかと考え検討しました。
Ⅱ.研究の概要と成果
APM2蛋白を発現させた培養細胞を作製し、シスプラチンを投与した状態での細胞増殖(図1)や遺伝子発現をバイオインフォマティクス(注4)の技術を用いて行い、関連蛋白を含む分子機能解析(図2)を行いました。臨床検体でもシスプラチンに対する効果が低かった群で肝癌及び背景肝組織でのAPM2の発現が上昇していました。
そのメカニズムとして、バイオインフォマティクス解析や癌組織の解析からAPM2と塩基除去修復に関与するERCC6Lの関連が示唆されました。また、シスプラチン治療に効果のあった肝癌、胃癌の患者さんでは、血液中のAPM2濃度が低く(図3)、その効果予測に有用であることが示されました。
Ⅲ.今後の展開
血液中のAPM2濃度がシスプラチンの効果予測のマーカーとなりうることが明らかとなりました。この濃度を測定することで、シスプラチンの効果が高い腫瘍が予測でき、患者さんごとに最適な治療を選択する際に有用な情報となります。今後は、より癌種の幅を広げた解析を行い、個別化医療の最適化に結び付けていきたいと思います。
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2021年3月18日19時(日本時間)にScientific Reports誌(IF 3.998)に掲載されます。
論文タイトル:Adipose Most Abundant 2 Protein is a Predictive Marker for Cisplatin Sensitivity in Cancers
著者:Kenya Kamimura, Takeshi Suda, Yasuo Fukuhara, Shujiro Okuda, Yu Watanabe, Takeshi Yokoo, Akihiko Osaki, Nobuo Waguri, Toru Ishikawa, Toshihiro Sato, Yutaka Aoyagi, Masaaki Takamura, Toshifumi Wakai, and Shuji Terai
doi: 10.1038/s41598-021-85498-7
用語解説
注1:シスプラチン
シスプラチンは抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)のひとつです。白金錯体に分類される抗がん剤で、様々な癌に対する治療に使用されています。DNAと結合してその鎖内に架橋を形成することで抗腫瘍効果を呈します。
注2:分子標的治療薬
特定の分子を標的として、その機能を制御することにより治療する療法で、癌細胞で活発な分子などを抑えたりすることで抗腫瘍効果を発揮します。
注3:免疫チェックポイント阻害薬
免疫を抑制するシステムが阻害される薬剤。
注4:バイオインフォマティクス
生命が遺伝子や、蛋白などに持っている様々な情報を対象に、情報科学や統計学などの方法論を用いた分析から生命現象を解き明かしていく学問分野のこと。
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学
医学部医学科総合診療学講座/
大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
特任教授 上村顕也(かみむら けんや)
E-mail:kenya-k@med.niigata-u.ac.jp









