NEWS&TOPICS

2021/10/13 研究成果
ニンジンの摂取と低肥満度を結び付ける遺伝子型を同定

新潟大学医学部血液・内分泌・代謝内科研究室の藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授らの研究チームは、肥満度と関連した野菜各種の摂取頻度と相互作用のある遺伝子多型(一塩基多型、SNP(注1))の分析を行いました。その結果、肥満度とニンジンの摂取頻度との関連に影響を及ぼすSNPが存在することを発見しました。本研究結果から、野菜摂取による体重の低下には個人の遺伝子多型が影響する可能性が示されました。
 
【本研究成果のポイント】
・日本人を対象にしたゲノムワイド関連解析(注2)により、肥満度に関して各野菜の摂取頻度と相互作用のあるSNPsを検討した。
・ヒト12番染色体上のSNPのひとつであるrs4445711のGアレルをもつタイプにおいて、ニンジンの摂取頻度の増加が肥満度の低下と関連していることを見出した。
・本成果は、野菜摂取による体重減量のメカニズム解明や、特定の野菜摂取により効果的に減量しやすい人の予測、などに役立つことが期待される。
 
Ⅰ.研究背景と概要
同じような食事をしても、なぜ人によって肥満度が違うのかという問題は、栄養学の大きな課題です。それぞれの人を作り上げている遺伝子全体の集まりをヒトゲノムといい、その基本情報の大部分は人類共通ですが、一部に見られる個体別の遺伝子の多様性(=多型)と、個体間の形質、形態、さらには生活習慣・生活習慣病との関連が、現在世界的に研究されています。
 
野菜を多く摂る人は肥満になりにくいことが、多くの研究で示されています。しかし、様々な野菜ごとに摂取頻度を細かく分類し、肥満度や肥満に関して、摂取頻度と遺伝子多型(一塩基多型、SNP)の間に遺伝子・環境相互作用があるかを大規模かつ詳細に検討した報告は、これまでほとんどありませんでした。
 
今回、本研究チームが株式会社ジーンクエスト(本社:東京都港区、代表取締役社長:高橋祥子)と共同で、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行ったところ、ヒト12番染色体上のSNPのひとつであるrs4445711のGアレルをもつ人において、ニンジンの摂取頻度の増加と肥満度の低下が関連していることが初めて明らかとなりました。なお本研究は、栄養学の国際専門誌「Nutrients」に掲載されました。
 
Ⅱ.研究方法と結果の詳細
日本人約1万2千人(男性6,495名、女性5,730名)のゲノム情報とWebアンケート情報を用いました。GWASを行い、ヒトゲノム上で、肥満度や肥満に関して、それぞれの野菜の摂取頻度とSNPの間に遺伝子・環境相互作用があるかを横断的に検討しました。その後、飲酒、喫煙、運動習慣、総野菜摂取などの、既知の肥満度と関連する因子の影響を除いて(補正して)、肥満度および肥満(BMI 25 kg/㎥以上)に関して、ニンジン、ブロッコリー、ホウレンソウ・コマツナ、ピーマン・サヤインゲン、カボチャ、キャベツといったそれぞれの野菜の摂取頻度と相互作用のあるSNPを検索しました。その結果、表1に挙げたSNPsが肥満度に関して、それぞれの野菜摂取と相互作用があることが示唆されました(表1)。
 
次に上記のSNPsの中で特に有意だったSNPに関して、肥満度と肥満について、野菜の摂取頻度とSNPの間にある遺伝子・環境相互作用について詳細に解析しました。その結果、ヒト12番染色体上のSNPのひとつであるrs4445711(図1)のGアレルをもつタイプにおいて、ニンジンの摂取頻度の増加は、肥満度および肥満(の割合)と負に関連することが示されました(図2)。肥満度との関連は、飲酒、喫煙、運動習慣、総野菜摂取などの、既知の肥満度と関連する因子の影響を除いても比較的強く維持されていました。
 
さらに、rs4445711の影響を、男性と女性、年齢別に分けてそれぞれ解析した結果、男女間で影響に差はなく、若年でより強い関連が認められました。その他の野菜に関しても同様の分析を行いましたが、rs4445711と同程度に肥満度や肥満に相互的に作用するSNPはみられませんでした。
 
ニンジンにはカロテノイドが豊富に含まれており、βカロテンの血中濃度は糖尿病やがんの発症、インスリン抵抗性を含む炎症系の指標と関連することが報告されています。なお今回の研究は、ニンジンの摂取頻度を増加させることで肥満度が低下するかを直接証明したものではなく、また、全エネルギー摂取量や調理法を含むニンジンの摂取方法、血中のカロテノイド濃度の情報などが含まれないことから、今後は、これらの要因の影響を含めたさらなる前向きの検討が期待されます。
 
Ⅲ.今後の取組
このような遺伝子・環境相互作用の分析を活用し、肥満度や肥満に限らず、健康寿命の延伸を妨げる生活習慣病や動脈硬化疾患の予防に関して、治療や予防の個別化に役立つ科学的エビデンスを確立していく予定です。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2021年9月30日、栄養学の国際専門誌「Nutrients」(IF:5.717)に掲載されました。
論文タイトル:Carrot consumption frequency associates with reduced BMI and obesity by the SNP intermediary rs4445711
著者: Kazuya Fujihara, Shun Nogawa, Kenji Saito, Chika Horikawa, Yasunaga Takeda, Kaori Cho, Hajime Ishiguro, Satoru Kodama, Yoshimi Nakagawa, Takashi Matsuzaka, Hitoshi Shimano, Hirohito Sone.
doi: 10.3390/nu13103478
 
 
注1:SNP:Single Nucleotide Polymorphism. ある生物種集団のゲノム塩基配列中に1%以上の頻度で見られる一塩基が変異した多様性。
注2:ゲノムワイド関連解析(GWAS):ヒトゲノム全体のSNPsの遺伝子型を決定し、SNPsの頻度と病気や量的形質との関連を統計的に調べる方法。

本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医学部 血液・内分泌・代謝内科
特任准教授 藤原 和哉(ふじはら かずや)
Email:kafujihara-dm@umin.ac.jp

最新の記事 ←新記事 一覧へ戻る 前記事→ 最初の記事