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2021/10/20 研究成果
新規エンテロウイルスD68特異的PCR法を開発 −今後の世界的流行に備えて−

エンテロウイルスD68は子どもに感染すると喘息に似た呼吸器疾患(強い咳が出る、呼吸がぜーぜーするなど)や、急に手足に麻痺が出て高率に後遺症を残すことがある、とても怖いウイルス感染症です。これまでに有効な治療は見つかっていません。
今回、新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野の幾�鷦�(大学院生)、齋藤昭彦教授らのグループは、同研究科バイオインフォーマティクス分野(奥田修二郎教授ら)との共同研究で、これまで標準的に使われてきた方法よりも、エンテロウイルスD68をより正確に検査できる方法を新しく開発しました。今後、流行が心配されるエンテロウイルスD68に対して、このより正確な検査法を用いることで、正確な診断、患者の把握が可能となり、今後の治療法の研究に役立ちます。
 
Ⅰ.研究の背景
エンテロウイルスD68感染症は喘息に似た呼吸器疾患(強い咳が出る、呼吸がぜーぜーするなど)である喘息発作様呼吸器疾患や、手足に麻痺をきたし高率に後遺症を残す急性弛緩性脊髄炎を起こすことがあります。国外は2014年、2016年、2018年と、国内では2015年、2018年と周期的な流行が見られています。エンテロウイルスD68による喘息発作様呼吸器疾患は通常の気管支喘息発作よりも重くなることが多く、集中治療室での治療が必要なことがあります。また急性弛緩性脊髄炎では四肢の麻痺を起こし、約半分の患者さんに後遺症を残します。エンテロウイルスD68の検出や遺伝子の細かい解析にはPCR法が一般的です。今までは米国ワシントン大学や米国疾病予防管理センター(CDC)が開発したPCR法がエンテロウイルスD68の検出や塩基配列の解析の標準的な検査方法でしたが、それらの方法では近年流行しているウイルス株に対して、今回の我々の検討では、十分対応できていないことがわかりました。
エンテロウイルスD68感染症のより正確な診断は患者さんの把握に重要で、それが未だ有効な治療法のないエンテロウイルスD68感染症についての研究が進むために重要と考えています。

Ⅱ.研究の概要
2014年から2018年に流行したエンテロウイルスD68のRNAの塩基配列を解析し、PCR法で確認する場所の遺伝子を細かく調べました。すると、これまでの標準的な方法で見つける場所には、遺伝子の変異が見つかり、変異に合わせて2種類の新しいPCR法を開発しました。1つ目はウイルス検出のためのリアルタイムPCR(NU assay)、2つ目は遺伝子をより細かく調べるためのPCR(N-Set)です。PCRでは調べたいウイルスをきちんと検出できる正確さ(感度)の高さと、他のウイルスには検査で陰性(特異度)の高さが重要です。そのため、エンテロウイルスD68の22検体と、エンテロウイルスD68以外のウイルス135検体を使って、リアルタイムPCR(NU assay)の感度と特異度を調べました。同様に、遺伝子をより細かく調べるためのPCR(N-Set)の感度についても調べました。感度については、従来の標準的なワシントン大学の方法と比較しました。また、これまでに登録されているエンテロウイルスD68の遺伝子(540個)、D68以外のエンテロウイルスの遺伝子(3683個)などを使ってコンピューターで解析し、新しく開発したPCR法がこれまでに登録されているエンテロウイルスD68と同じかどうかを調べました。
 
Ⅲ.研究の成果
エンテロウイルスD68の22検体で、新しく開発したリアルタイムPCR法(NU assay)とこれまでの標準的検査法であるワシントン大学のPCR法で検査したところ、新しい方法でPCR陽性率が大幅に上昇しました(100% vs 45.4%)。エンテロウイルスD68以外のウイルス135検体については、新規PCR法では陽性になることはありませんでした。塩基配列を調べるためのPCR(N-Set)については、標準的なCDCの従来法と比べてPCR陽性率が高かったです(90.9% vs 72.7%)。また、登録されている過去のエンテロウイルスD68の塩基配列と、新しいPCR法との相性をコンピューター解析したところ、特に2015年以降のエンテロウイルスD68の塩基配列との相性がいいことがわかりました。
PCRとしての感度と特異度が非常に高いことが確かめられたため、2015年と2018年のエンテロウイルスD68が流行した時期に新潟県内に認められた急性弛緩性脊髄炎の11症例の血液、髄液、咽頭拭い液、便などの検体に従来法と新規PCR法を実施しました。その結果、これまでの方法では1例のみエンテロウイルスD68が陽性だったのに対し、新しい方法では3例で検出されました。

Ⅳ.今後の展開
本研究グループは世界の標準的な検査法として知られていた従来法と比べ、より正確な検査法(PCR法)を開発しました。当研究室で急性弛緩性脊髄炎の症例を振り返って調べ直し、従来の方法では検出できなかったエンテロウイルスD68が検出されたように、今までに原因ウイルスが特定されていない急性弛緩性脊髄炎の検体を再度検査し直す必要があると考えられました。また、エンテロウイルスD68は2014年以降世界的に周期的な流行を示しています。今後も国内外で大きな流行を起こす可能性があり、その際には、我々が開発した新しい方法を用いて、国内はもちろん、世界におけるサーベイランスを行うことで、より正確な診断、患者の把握が可能になると考えています。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2021年8月25日、米国微生物学会の学会誌であるJournal of Clinical Microbiology誌(Impact factor 5.948)に掲載されました。
論文タイトル:Development of Novel PCR Assays for Improved Detection of Enterovirus D68
著者:幾�鷦�、相澤悠太、瀧原速仁、渡邉香奈子、奥田修二郎、齋藤昭彦
doi: 10.1128/jcm.01151-21
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 小児科学分野
教授 齋藤昭彦(さいとう あきひこ)
E-mail:asaitoh@med.niigata-u.ac.jp

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