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2021/12/01 研究成果
新潟市における新型コロナウイルス感染症流行初期のクラスター発生要因の解明 − 積極的疫学調査とゲノム解析に基づく包括的成果 −

新型コロナウイルス感染症が、地域でどのようなクラスター(小規模な集団発生)を引き起こしているか、詳しく調べることは地域の感染防止のために非常に重要です。しかしながら、これまで、自治体レベルでの報告はほとんどなされていません。
今回、新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野の我妻奎太(大学院生)と齋藤玲子教授らの研究グループは、新潟市保健所、新潟市、新潟大学大学院自然科学研究科バイオインフォマティクス分野の阿部貴志教授、新潟県保健環境科学研究所、国立感染症研究所、新潟県と協力することで、新潟市における新型コロナウイルス感染症の流行初期におけるクラスター発生の特徴を、疫学解析とゲノム解析の双方を組み合わせることで明らかにしました。本研究成果は、今後の新潟市の新型コロナウイルス感染症対策の強化に役立つことが期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・2020年2〜3月の新潟市の第1波は、新型コロナウイルス感染症が、スポーツ活動、家族、職場、高齢者施設などを通じて広がっていました。4〜5月の第2波では発端者は互いに接点が無く、大都市圏から複数回にわたって感染が伝播されたことが明らかになりました。
・新潟市の第1波は中国系統、第2波はヨーロッパ系統の新型コロナウイルスでした。
 
Ⅰ.研究の背景
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、2020年にパンデミック(世界的大流行)を引き起こし、私たちの生活に大きな変化をもたらしました。日本では、全国レベルでの新型コロナの疫学解析やゲノム解析の結果が報告されています。しかしながら、自治体レベルで、新型コロナのクラスターの発生状況を詳細に解析した報告はほぼありません。そこで本研究では、2020年2〜5月の流行初期段階に焦点を当てて、新潟市で発生したクラスターの連鎖の特徴や拡散パターンを、疫学解析とゲノム解析の双方向のアプローチから検討しました。
 
Ⅱ.研究の概要
新潟市保健所が積極的疫学調査で収集した新型コロナ63症例の疫学データを用いて、症例の特徴、クラスター発生の要因、ウイルス量などを解析しました。また、新型コロナのウイルス遺伝子全長配列を用いて、ウイルス株同士の近縁性を示すネットワーク解析、時空間的な感染症の広がりを示す系統地理学解析を併用することで新潟市の新型コロナの流入経路について推定しました。

Ⅲ.研究の成果
2020年はじめに新潟市でみられた新型コロナの流行は、第1波(2〜3月)と、第2波(4〜5月)に分けられます(図1)。
 
新型コロナ患者の発症後の日数と、リアルタイムPCRで計測したウイルス量との関係を見たところ、症状出現時に最もウイルス量が高くなり、経時的にウイルス量が減少していることが判明しました(図2)。特に、この時期に流行した新型コロナウイルスは、発症後9日以内(中央値で20.9サイクル、黄色点線)と10日以上(中央値で34.1サイクル、黄緑点線)のウイルス量に1000倍以上の差があり(リアルタイムPCRのサイクル数で約10サイクル)、ウイルス量が10日を境にして大きく減ることが明らかになりました。日本における新型コロナ症例の隔離期間(入院)は、2020年6月から「発症日から10日間」となっていますが、我々の解析でウイルス量が10日以降はぐっと下がることが分かり、隔離期間が妥当であることが示されました。

新型コロナのウイルス遺伝子全長配列が得られた47症例を用いて、系統樹解析を実施したところ、第1波と第2波では、異なる系統の新型コロナが新潟市で流行していたことが分かりました。第1波は、中国武漢で流行したクレードS(19B)に属していましたが、第2波はその時期にヨーロッパで流行していたクレードGR(20B)に属していることが分かりました(図3)。

ウイルス遺伝子の全長配列を用い、感染経路のつながりを、ネットワーク解析で検討したところ、積極的疫学調査からクラスターのきっかけと推定されていたスポーツ活動、高齢者施設、帰省者、家族、友人などが同じウイルスグループを形成していることが分かりました(図4)。また、第1波で特定されたウイルスグループの多くは、第2波で採取された株より遺伝子変異の頻度が低いことが分かりました。

新潟市とその他の地域における新型コロナの拡散パターンを探るため、ウイルス遺伝子の全長配列を用いて、系統地理学的解析を実施しました(図5)。その結果、新潟市の第1波では東京都で発生したウイルス株と強い関係が確認され、東京都からの単一の流入経路であったことが分かりました。一方で、第2波では、関東圏、関西圏、九州、海外などの複数の地域とのつながりが確認され、新潟市への複数の流入経路があったことが明らかになりました。

Ⅳ.今後の展開
新潟市における新型コロナ流行の最初の4カ月には、�� 流行地域からの帰省者や訪問者がきっかけとなる、�� 海外からの輸入症例、�� 地域社会での感染、�� スポーツ活動、家族、職場、高齢者施設に関連してクラスターが発生していたことが明らかになりました。特に新潟市では、流行初期から、新潟市保健所による積極的疫学調査が迅速に行われていました。本研究は、新潟市保健所が、行政調査として行う積極的疫学調査が、患者クラスター発生の要因を特定し、次のクラスターを予防することで、医療へ過負荷を避けるために非常に重要であることを示しています。今後は、新潟市における変異株の流行状況や、ワクチン接種が、患者発生にどのように影響するか、解析していく予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2021年10月28日、微生物感染症分野の国際専門誌「Frontiers in Microbiology」(IF: 5.640)の電子版に掲載されました。
論文タイトル:Genomic Epidemiology Reveals Multiple Introductions of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 in Niigata City, Japan, Between February and May 2020
著者:我妻 奎太、佐藤 諒介、山崎 哲、岩谷 雅子、高橋 善樹、野島 晶子、大関 暢、阿部 貴志、Wint Wint Phyu、田村 務、 関塚 剛史、黒田 誠、松本 晴樹、齋藤 玲子
doi: 10.3389/fmicb.2021.749149
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、新潟市医師会の地域医療研究助成金(助成番号:GC03220213)、日本医療研究開発機構(AMED)のJ-GRID(Japan Initiative for Global Research Network on Infectious Diseases)(助成番号:15fm0108009h0001-19fm0108009h0005、20wm0125005h0001-21wm0125005h0002)、厚生労働省の厚生労働科学研究費補助金(助成番号:H30-Shinkougyousei-Shitei-002、H30-Shinkougyousei-Shitei-004)、新潟県新型コロナウイルス感染症対策研究・人材育成支援基金の支援を受けて実施されています。我妻奎太は、一般財団法人阪大微生物病研究会(BIKEN財団)BIKEN谷口奨学金の支援を受けています。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学広報室
E-mail: pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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