肝硬変の悪化に“腸内細菌由来の小胞”が深く関与していることを解明
新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の土屋淳紀准教授、夏井一輝先生(大学院生)、寺井崇二教授らの研究グループは、肝硬変の悪化の新たな機序として、“腸内細菌が放出する100nm前後ととても小さい小胞(注1)”が関与し、肝臓に新たな炎症をおこし線維化を悪化させ、また、肝臓が産生しむくみや腹水などの原因にもなる血清アルブミンも低下させることを初めて明らかにしました。本研究の成果より、肝硬変診療を行う上で、従来の腸内細菌のみでなく、細菌の小胞を新たにターゲットにした腸のバリア機能を意識した診療、薬物の開発の必要性が示されました。
【本研究成果のポイント】
・肝硬変の病状の進行には腸内細菌が関わりますが、今回、進行した肝硬変では特に、100nmと非常に小さい腸内細菌の放出する小胞が、悪化の原因の一つになることがわかりました。
・細菌の小胞はマクロファージや好中球などの免疫細胞に炎症を惹起し、肝臓の線維化の誘導・悪化に関わります。
・細菌の小胞は、肝硬変モデルマウスに投与すると線維化の悪化、アルブミン低下などヒトの進行した肝硬変患者さんと同じような病態を呈します。この病態において、アルブミンの投与により軽減する効果が示唆されました。
・ヒトの肝硬変患者さんからも細菌の小胞は検出でき、細菌の成分に対する抗体価が上がっていることが確認できました。
Ⅰ.研究の背景
肝硬変は患者数が日本国内で40万人おり、年間の死者は1万7千人に及ぶ国民病です。肝硬変はB型肝炎、C型肝炎などのウイルス、アルコール、生活習慣の欧米化などが原因で炎症を伴う肝障害とそれに引き続く線維化によって形成されます。肝臓は元来、“再生能力が非常に高く、線維化も改善しうる臓器”、症状をあらわさない“沈黙の臓器”として知られています。しかし、肝硬変が進行してくると黄疸、腹水、静脈瘤破裂、肝細胞癌の発症など様々な症状や病態を呈し、ウイルス、アルコール、生活習慣など肝障害の原因を解決したとしても、再生能力は乏しく線維化も改善せず進行してしまうことが多く見られます。このような、肝硬変が改善しなくなった状態は“point of no return”と知られています。この“point of no return”の原因は複数あると考えられていますが、腸の中に無数に存在する腸内細菌もその重要な原因の一つです。これまでの報告や臨床上の観察から、肝硬変の際には、腸では腸内細菌の多様性の低下、腸運動能の低下、粘膜のむくみ、粘液産生の低下や上皮接着バリア機能の低下、免疫能の低下などの様々な要因により腸内細菌の影響を受けやすくなることが観察されていました。今回、本研究グループは、腸内細菌そのものは侵入しなくても、細菌よりさらに小さい100nmと非常に小さいサイズの小胞が侵入することで、肝臓に悪影響を与えるという可能性を新たに推定し研究を行いました。
Ⅱ.研究の概要・成果
肝硬変の病態悪化時に検出される大腸菌の小胞を用いて、肝臓の細胞に与える影響および肝硬変モデルマウスに与える影響を解析し、主に次のような結果を得ることができました。
�� 大腸菌の小胞は、マクロファージや好中球に対して炎症を惹起することがわかりました。またその際にこれらの細胞でClec4e(macrophage-inducible C-type lectin: Mincle)(注2)の発現が上昇していることを明らかにしました。更に肝臓の機能に最も重要で大半の領域を占める肝細胞にはアルブミンの再生低下をもたらす等、重要な変化を及ぼすことがわかりました。
�� 肝硬変モデルマウスに、大腸菌の小胞を投与すると、肝臓に炎症を惹起させ、線維化が悪化し、更に、肝細胞で産生され血液中に放出されるアルブミンが低下することを明らかにしました。そして、この炎症の軽減や線維化の悪化は、アルブミンをマウスに投与することで軽減することが確認できました。また、肝臓外から集まってきたマクロファージにClec4eが発現していることも確認できました。
�� 肝硬変患者さんでは細菌の小胞が侵入している所見が複数確認できます。例えば、肝硬変患者さんの腹水からは、細菌の小胞を確認することができました。また、細菌の小胞に存在するタンパク質に対する抗体価が高いことが確認できました。
今回の解析で、肝硬変患者さんでは腸内細菌の小胞が侵入を示唆する所見が見られました。また、これらの小胞は実験的に、炎症の惹起と引き続く線維化の悪化、そしてむくみや腹水の原因ともなるアルブミンの低下などをもたらし、肝硬変患者さんに深刻な影響を引き起こす可能性があることが示唆されました。これらの研究から推定できる病態をまとめると以下のような図になります。
Ⅲ.今後の展開
本研究グループは新たに進行した肝硬変患者さんが、慢性的に細菌の小胞などにより炎症に暴露され、肝臓および全身に障害を及ぼす機構を明らかにしました。この現象は、肝硬変患者さんに日常的にみられている軽度の炎症・発熱と関連している可能性があります。肝硬変患者さんを悪化させないために、細菌の小胞の侵入を許さない新たな腸のバリア機能強化剤などの方法が必要になり、可能性を探っていきます。
Ⅳ.研究成果の公表
本研究成果は、2023年2月8日、欧文誌「Liver International」に電子版として掲載されました。
論文タイトル:Escherichia coli-derived outer-membrane vesicles induce immune activation and progression of cirrhosis in mice and humans
著者:Kazuki Natsui , Atsunori Tsuchiya, Risa Imamiya, Mayuko Osada-Oka, Yui Ishii, Yohei Koseki, Nobutaka Takeda, Kei Tomiyoshi, Fusako Yamazaki, Yuki Yoshida, Riuko Ohashi, Yiwei Ling, Koji Ueda, Nobuko Moritoki, Kazuhiro Sato, Takahiro Nakajima, Yoshinori Hasegawa, Shujiro Okuda, Shinsuke Shibata, Shuji Terai
doi: 10.1111/liv.15539
Ⅴ.謝辞
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業基盤研究(B:22H02866C)の支援を受けて行われました。また、本研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科顕微解剖学分野の芝田晋介教授、同大学医学部メディカルAIセンターの奥田修二郎教授、京都府立大学大学院生命環境科学研究科の岡真優子准教授、公益財団法人がん研究会 がんプレシジョン医療研究センターがんオーダーメイド医療開発プロジェクトの植田幸嗣プロジェクトリーダー、公益財団法人かずさDNA研究所ゲノム事業推進部遺伝子構造解析グループの長谷川嘉則グループリーダー、新潟大学大学院医歯学総合研究科分子・診断病理学分野の大橋瑠子准教授、慶應義塾大学医学部電子顕微鏡研究室の盛一伸子氏との共同研究にて行われた研究成果です。ここに御礼申し上げます。また、本研究は、新潟大学未来医療開発センター(Future Medical Research Center for Exosome and Designer Cell(F-EDC))(注3)の研究として行われました。
【用語解説】
(注1)細菌の小胞:近年、ヒトの研究にて細胞の産生、放出する100nm(ウイルスと同じくらいの大きさ)前後の細胞外小胞(一部は「エクソソーム」の言葉としても知られています)が安定な脂質二重膜で覆われ内部にタンパク質やDNAやRNAなどの核酸などの機能性物質を内包することから、生体で情報伝達物質として機能していることがわかっています。今回は細菌でも同様に産生、放出した小胞が肝硬変の悪化に重要な影響を及ぼすことを明らかにしました。
(注2)Clec4e(macrophage-inducible C-type lectin: Mincle):炎症刺激によりマクロファージにおいて発現が強く誘導される分子として、1999年に発見されました。その後、Mincleは病原体を認識すると炎症性サイトカインの産生が誘導され、生体の感染防御に働くことが明らかになりました。また、最近ではマクロファージによる死細胞の貪食を強く抑制することも報告されています。
(注3)新潟大学未来医療開発センター(Future Medical Research Center for Exosome and Designer Cell(F-EDC)):
https://www.niigata-u.ac.jp/contribution/research/information/medicine/#m7
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
准教授 土屋 淳紀(つちや あつのり)
E-mail:atsunori@med.niigata-u.ac.jp








