新規遺伝子治療法の有効性、安全性を大動物で証明 −ヒヒを対象とする血友病治療の前臨床研究−
遺伝子治療は難治疾患に対する治療法として着目されています。そこで、遺伝子を安全かつ効率的に生体に導入する方法の確立が重要です。
今回、新潟大学医学部医学科総合診療学講座/大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の上村顕也特任教授とジョージア大学薬学部のLiu教授らの研究グループは、これまでに開発してきたハイドロダイナミック遺伝子導入法(注1)を用いた遺伝子治療法の開発に向けて、その有効性と安全性を大動物で証明しました。
非ヒト霊長類であるヒヒを対象とする前臨床研究により、肝臓区域選択的なハイドロダイナミック遺伝子導入法が、大動物に安全に応用可能であること、血友病(注2)に対する治療に有用であること、安全に再治療が行えることを示しました。
【本研究成果のポイント】
・遺伝子治療は難治疾患に対する治療法として着目されています。遺伝子を安全かつ効率的に生体に導入する方法の確立が重要です。
・本研究グループがこれまでに開発した、肝臓選択的なハイドロダイナミック遺伝子導入法を霊長類(ヒヒ)に初めて応用し、安全性を確認し、遺伝子を導入した肝臓の区域選択的に遺伝子発現を確認しました。
・ヒト血友病の治療遺伝子を発現するプラスミド(注3)をヒヒに導入し、治療効果のレベルを200日間維持し、再治療も有効でした。
・遺伝子治療を行ったヒヒの肝臓以外の臓器には、プラスミドが導入されていないことを確認しました。
・臨床現場で使用しているカテーテル操作などを融合して、有用性の高い新規遺伝子治療法を確立しました。
Ⅰ.研究の背景
遺伝子治療は難治疾患に対する治療法として着目されていますが、遺伝子を安全かつ効率的に生体に導入する方法論の確立が重要です。具体的には、臨床応用に向けて、低侵襲的で安定した生体への送達技術の開発と安全性の評価、治療効果の確認を前臨床研究する必要があります。
そこで本研究グループでは、これまでにLiu教授らの研究グループと共同でハイドロダイナミック遺伝子導入法を用いた治療法の開発を目指してきました。
Ⅱ.研究の概要
�� 研究グループが開発したコンピュータ制御の遺伝子導入システム(特許第5922864号)と、肝臓の区域の肝静脈にカテーテルを挿入する臨床技術を組み合わせて、20 kg前後のヒヒに対して、肝臓区域選択的なハイドロダイナミック遺伝子導入を行いました。
�� 遺伝子導入前後の心電図、心拍数、血中酸素飽和度、血圧、体温などの生理学的な変化、肝機能などの血液生化学的変化、再治療時のアレルギー、免疫反応などを検討し、安全性を確認しました。
�� ヒト血友病の治療遺伝子を発現するプラスミドをヒヒに導入し、長期的な遺伝子治療効果を明らかにしました。また、治療効果の低下した200日目に再治療を行い、その安全性と有効性を確認しました。
�� 遺伝子治療を行ったヒヒの肝臓以外の臓器にプラスミドが導入されていないことを確認し、臓器選択的な遺伝子治療効果を確認しました。
Ⅲ.研究の成果
これまでの研究成果に基づいて、霊長類を対象として肝臓選択的なハイドロダイナミック遺伝子導入法による遺伝子治療法を行い、その有効性と安全性を報告しました。さらに、血友病に対する遺伝子治療効果と、再治療の安全性を確認し、臨床応用可能なハイドロダイナミック遺伝子治療法を確立しました。
Ⅳ.今後の展開
本研究の成果で、臨床応用可能なハイドロダイナミック遺伝子治療法を確立しました。現在有効な治療が確立されていない難治疾患に対する治療方法として有用です。また臨床技術と基礎研究との融合という観点から、トランスレーショナルリサーチの発展としても有意義であると考えます。難治疾患に対する遺伝子治療法として基礎研究と前臨床研究を進めます。
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2023年5月17日、科学誌「Molecular Therapy-Nucleic Acids」誌(Cell Press、IF 10.183)にオンライン掲載されました。
論文タイトル:Liver Lobe-specific Hydrodynamic Gene Delivery to Baboons: A Preclinical Trial for Hemophilia Gene Therapy
著者:Kenya Kamimura, Tsutomu Kanefuji, Takeshi Suda, Takeshi Yokoo, Guisheng Zhang, Yutaka Aoyagi, and Dexi Liu
doi:10.1016/j.omtn.2023.05.018
用語解説
注1:ハイドロダイナミック遺伝子導入法
物理的な力(水圧)を利用して、遺伝子を対象臓器の血管から導入して、臓器の細胞で目的とする蛋白を発現させる方法です。申請者らはこれまでにこの方法を用いて、肝硬変に対する遺伝子治療法研究や臨床応用するための大動物での検証、肝臓や膵臓など臓器選択的な遺伝子導入法の開発、膵臓発がんモデル動物の確立を重ねてきました。(Kamimura K, et al. Mol Ther, 2009; Kamimura K, et al. Mol Ther, 2010; Yokoo T & Kamimura K, et al. Gene Ther, 2013; Kamimura K, et al. Mol Ther Nucleic Acids, 2013; Abe H & Kamimura K, et al. Mol Ther Nucleic Acids, 2016; Kobayashi Y & Kamimura K, et al. Mol Ther Nucleic Acids, 2016; Ogawa K & Kamimura K, et al. Mol Ther Nucleic Acids, 2017; Shibata O & Kamimura K, et al. Mol Ther Nucleic Acids, 2022)
注2:血友病
出血の際に機能する凝固因子と呼ばれる蛋白の働きが、遺伝的に十分ではないために、出血が止まりにくくなる病気です。
注3:プラスミド
細菌で核外に存在し、染色体DNAとは独立して複製される環状の2本鎖DNAです。また、目的遺伝子を組みこんで、種々の細胞に遺伝子を運び、遺伝子を発現させるために利用されます。
本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
新潟大学医学部医学科総合診療学講座/大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
特任教授 上村顕也(かみむら けんや)
E-mail:kenya-k@med.niigata-u.ac.jp
【広報担当】
新潟大学医歯学系総務課
E-mail:shomu@med.niigata-u.ac.jp







