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2023/10/31 研究成果
抗てんかん薬による薬疹の種類別リスク因子を発見 −遺伝子検査で異なるタイプの薬疹の発症を予防−

理化学研究所(理研)生命医科学研究センターファーマコゲノミクス研究チームの莚田泰誠チームリーダー、福永航也研究員(国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部協力研究員)、国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部の斎藤嘉朗部長(研究当時、現同研究所副所長)、本学大学院医歯学総合研究科の阿部理一郎教授らの共同研究グループは、抗てんかん薬カルバマゼピンによって生じる重症薬疹[1]のうちスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)[2]や中毒性表皮壊死融解症(TEN)[3]には特定のHLAアレル[4]である「HLA-B*15:11」、それ以外の薬疹には「HLA-A*31:01」が強く関連することを発見しました。
本研究で同定された二つのHLAアレルは、カルバマゼピンによる薬疹の発症リスクを予測するバイオマーカー[5]として活用されることが期待されます。
カルバマゼピンは、世界中でてんかんの治療薬として使われていますが、副作用である薬疹の発症率が高いことが問題となっています。重症薬疹であるSJS、TENや薬剤性過敏症症候群(DIHS)[6]に加えて、軽症薬疹である播種状紅斑丘疹型薬疹(MPE)や多形紅斑(EM)など多様なタイプの薬疹が存在し、症状や治療方法もさまざまです。
今回、共同研究グループは、SJSまたはTEN発症患者におけるHLA-B*15:11の保有率は29%であり、日本人集団における保有率2%と比較して統計的に有意に高頻度であることを突き止めました。HLA-A*31:01はSJSおよびTEN以外の薬疹と強く関係していることも明らかにしました。この二つのバイオマーカーを用いることでカルバマゼピンによる薬疹患者の約3分の2を説明することができました。
本研究は、科学雑誌「Journal of Investigative Dermatology」オンライン版(10月30日付:日本時間10月30日)に掲載されました。
 
 
【用語解説】
[1] 薬疹
薬によって起こる皮膚や眼、口などの粘膜に現れる発疹。
 
[2] スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)
高熱(38℃以上)を伴って、発疹・発赤、火傷のような水ぶくれなどの激しい症状が、比較的短期間に全身の皮膚、口、目の粘膜に現れる病態。その多くは医薬品が原因と考えられており、原因となる医薬品は抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬、抗けいれん薬などの広範囲にわたる。SJSはStevens-Johnson syndromeの略。
 
[3] 中毒性表皮壊死融解症(TEN)
全身の体表面積の10%を超える火傷のような水ぶくれ、皮膚の剥がれ、ただれなどが認められ、高熱(38℃以上)、目が赤くなるなどの症状を伴う重症の皮膚障害。中毒性表皮壊死融解症の症例の多くが、スティーブンス・ジョンソン症候群の進展型と考えられている。TENはtoxic epidermal necrolysisの略。
 
[4] HLAアレル
ヒト白血球型抗原(HLA)を決定する遺伝子の型。HLA遺伝子には多くの種類が存在し、さらにそれぞれの遺伝子が数十種類の異なるタイプを持つ。HLAは免疫に関係が深く、多くの疾患の発症や副作用の発現のリスク因子であることが報告されている。HLA-A*31:01やHLA-B*15:11はHLAアレルの一つ。アレルとは対立遺伝子のことで、同一の遺伝子座にありながらDNA塩基配列に差がある変異体を指す。HLAはhuman leukocyte antigenの略。
 
[5] バイオマーカー
疾患の発症や進行の予測に役立つ生体由来の物質のこと。特定の遺伝子配列や血液中のタンパク質や代謝産物などが対象になる。
 
[6] 薬剤性過敏症症候群(DIHS)
高熱(38℃以上)を伴って、全身に赤い斑点が見られ、さらに全身のリンパ節(首、わきの下、股の付け根など)が腫れたり、肝機能障害などの血液検査値の異常が見られたりする重症の皮膚障害。通常の薬疹とは異なり、原因となる医薬品の服用後すぐには発症せずに2週間以上経ってから発症することが多い。DIHSはdrug-induced hypersensitivity syndromeの略。
 
 
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本研究科の共同研究者
大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野
阿部 理一郎 教授
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp
 
広報担当
新潟大学広報事務室
E-mail:pr-office@adm.niigata-u.ac.jp
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内容は以下のPDFをご確認ください。
「抗てんかん薬による薬疹の種類別リスク因子を発見−遺伝子検査で異なるタイプの薬疹の発症を予防−」(PDF)

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